第4話 釣り

 築港には三時間くらいいた。釣果は僕は二十匹くらいか。まあ、サイズが大き目だからいいけれど。上島は四十匹くらいらしい。なかなかやるな、と思った。


 帰宅したら、シャワーを浴びて、冷えたビールとチカをフライにしたものと焼いたチカを食べよう。何だかワクワクしてきた。


 こういう釣ってきた魚を調理してくれる彼女が欲しいな。今は彼女募集中だ。就職してから彼女はいない。寂しいはなしだ。いずれは結婚もしたいと思っている。でも、今、僕は二十三歳でまだ遊んでいたい。それに、今の給料じゃ奥さんになる人を養っていけない。子どもが出来ればなおさらだ。そのために毎月コツコツ貯蓄している。


 僕は自分でも思うけれど地味な男だ。派手な男にあこがれて髪を茶色に染めたこともあった。けれど、父に、

「おまえは黒髪が似合ってるから、茶髪はやめろ」

と、言われて染め直した。妹のあずさは、

「茶髪のほうがよかったじゃん!」

 言われたが、内心、自分でも似合ってないと思っていた。妹は二十一歳。コンビニの店員を高校卒業してから続けている。どうやら彼氏はいるようだ。だが、僕は梓のことがすごく好き。シスコンと言われても否定できない。妹はとても頭がよく、世渡りも僕とちがってうまい。梓に彼氏ができたのを知ったときは正直ショックだった。でも、兄として妹のしあわせをねがうしかない。とんでもない悪党みたいな彼氏なら反対するけれど、いまの彼氏はそうじゃないみたいだからだまっている。


 僕の家は父と妹と僕の三人暮らし。母は三年前に胃がんで病死した。それ以来というものの父はひどく落ち込んでしまい、仕事をやすみがちになってしまった。父の職場は土建業。不死身の肉体を持つ父かと思えば、案外、精神的にもろいところもあるようだ。僕や妹は

医師から余命宣告を受けていたので覚悟はできていた。だから、落ち込みはしたけれど父ほどではない。梓も同様のようだった。


 さて、帰宅するか。あとかたづけをして僕は上島に、

「じゃあ、またな」

 言って、自分の車にもどった。

 釣り竿とビニール袋にはいっているチカとのこっているエサをリュックにしまい、それを助手席に積んで発車した。

 もう夕方なのでさむくなってきた。暖房をちいさめにいれた。あまり温かいと魚の鮮度が下がってしまうから。


 疲れていたので自宅に着いてからすぐに下着とスウェットを自分の部屋のたんすから引っ張り出し、脱衣所に向かいそれらを床に置いてあるカゴに入れ、浴室にはいり浴槽にお湯を入れ始めた。


「お兄ちゃん、魚くさい」

 梓にそう言われたので、

「いま、風呂はいるから。お湯溜まるまでチカを料理しちゃうわ。梓もチカ好きだろ?」

 梓は笑みを浮かべ、

「そうだね。でも、いま袋のなか見たけど結構サイズ大きいね」

「そうだな。チカの最盛期は冬だからな。いまは四月だからすこし時期外れだわ」


 僕は父に、

「チカのフライと焼いたもの食べるだろ?」

 父はテレビを観ている。そして、

「あるなら食うぞ」

 と、返事をした。


 釣りはたのしかったけれど、つかれた。なので居間の絨毯のうえに横になった。

「どうしたんだ?」

 と、父。

「釣りしてつかれた」

 と、僕。

「なんだ、それくらいでつかれたのか。よわいな」

 父にそう言われすこし不愉快になった。

「父さんに言われたくないよ」

 おたがい、だまった。まあ、いいか。一瞬、母が亡くなったときのことを思い出した。ちょっと、言い過ぎたか。気にしているかどうかは分からないけれど。

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認知症高齢者スタッフの恋の行方 遠藤良二 @endoryoji

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