017. 氷の王子=アイス・プリンセス?

翌日、教室に行くと何故か“初等教育課程”の三年Sクラスの廊下に人が溢れていた。同じ三年生の他のクラスの生徒たちだった。

それは昨日…。

寮に戻った生徒たちがそれぞれ同室の生徒たちに話をしていた。同じクラスの生徒同士が寮の部屋で同室にならないように別のクラスの生徒と交流するために部屋割りがされている。その所為せいで良い・悪いも瞬く間に【噂】として広まってしまう。そしてではなく自国の国民だから。

『ねぇねぇ、今日ウチのクラスに来た編入生ってすごく素敵』

『あまり話さないけど、何となくそれがまたかっこいい』

『あれ?この国の人だよね?留学生じゃないのにこんな時期に?』

『用事があって教員室行ったけど、先生方でも何故かこの方の話はできないみたい…』

『顔を見た方の話ですと女の子みたいな容姿だとか…』

『早速あったみたいだよ…、Sクラスってアイツがいるじゃん。ヴァルター・ノルディック』

『えっ?ヴァルター・ノルディックに目をつけられたの?』

『あぁ、さっそくアイツのカモだ。かわいそうに…』

『これで暫くは虐められないで済む…かも』

『明日は教室に見に行きましょ』

『どんな人が編入してきたのか見ようよ』

『そういえば…名前は?』

『カイト…そうそう、カイト・ブルー・クライン様よ!』




その一方で…。

ヴァルター・ノルディックは苛立っていた。

教師たちに話を聞いてもカイト・ブルー・クラインのことは誰も知らなかった。

「何故だ?!何故、誰もカイト・ブルー・クラインのことを知らぬのだ?他国から来たものではないのだろ?ましてや家名があるんだ…貴族だろうが…?」

独り言をブツブツ言っているとSクラスに新しい生徒が入ったことを知った同室の生徒たちは部屋に入るなりヴァルターに聞いた。

「ねぇねぇ、ヴァルター。君のクラスに編入生来たんだろ?どんな奴なの。教えてよ」

「あ゛?お前らには関係ないだろ?何故そんなことを俺に聞く!」

「そりゃ、ヴァルターのクラスだからよ。名前は?」

「てめぇら、ごちゃごちゃうるさいんだよ!俺の前でアイツの話はすんな!」

「少しくらい教えてくれても…。ヴァルターこそ何んでそんなにムキになって怒っているんだよ」

少し顔を赤くしているヴァルターを見て揶揄からかい気味に言ってみた。

「はぁ?何ふざけたこと言ってる?俺は別に怒ってねぇ!」

「あっ、ご…ごめん…」

「ルイス…ヴァルターとは話できないよ…他の部屋の奴に聞こうぜ」

「あ、あぁ」

部屋に戻ってきたはずの同室の生徒たちはヴァルターを残してまた部屋から出て行った。

「あまりヴァルターと関わるのやめようぜ…どうせ何か企んでいるんだろ」

「そうだな…あと残り六か月くらいだし…。ヴァルターにとっては僕たちはただの取り巻きであって言うことを聴くしもべだもんな…」

「うん、やめやめ」

そう小さな声で呟きながらヴァルターの同室の生徒たちは他の部屋へと入っていった。




昨日の寮なんではそんなざわめきがあったため、他のクラスから編入生を見に来た生徒たちでうめつくされていた。

「ちょっと何で教室前の廊下に人がいっぱいなの?」

「何があったんだよ…」

それぞれが文句を言いながらSクラスの生徒たちは教室へ入ろうとしていた。

「ねぇ、教室に入らせてくれない?」

「す、すみません…」

教室の前で編入生を探す他のクラスの生徒たちをかき分けてSクラスの生徒が次々と入ってきた。

始業時間ギリギリまで粘るようだ、誰も動かない。

なかなか目的の人物も来ないので諦め、自分の教室に戻る生徒もでてきた。それでもまだ離れようとしない生徒もいた。

始業時間寸前になってやっと現れたカイトは冷たい表情をしていた。周りに何かがいるのは【気配探知】でわかった。カイトは知らないフリをして教室へ入ろうとすると女子生徒が話しかけてきた。

「あ、あのぅ…私…キャロライン、キャロライン・フライホルツ。子爵家の…」

「あっ、私はアシュリン」

「ちょっと抜け駆けは許さないわよ!私、シェルビー」

カイトの周りに輪をつくり、隣に立つ女子生徒同士が肩で小競り合いながら話をしてきた。

「私も…私はジャンナ…」

教室の中に入れなくなったカイトは周りを囲んできた女子生徒たちをきつく睨みつけた。

「…邪魔」

「「「「えっ?」」」」

「聞こえなかったのか?邪魔だ」

女子生徒を睨むような目つきをしながらカイトは低い声で答えた。

「編入したばかりのこの学園のこと知らないみたいなので親切に教えてあげようと思って声かけたのに…」

「そ、そうです!ここにいる皆そう思ってお話しているのです」

カイトの視線を気にしながら強気に話したのはCクラスのシェルビーだった。

「はっ、親切?教室の入り口を塞ぎ入れないようにして待ち伏せしているような奴らから出る言葉か?迷惑なんだよ!」

「うっ、うっ、うっ、酷いです…そんな言い方しなくても…」

貴族であるがために親にも叱られたことのない子どもが突然に睨まれ冷たく突き放す話し方をしたカイトが珍しかった。その所為せいで泣き出す女子生徒もいた。

カイトは泣き出した女子生徒の横をすっと通り、教室の中へと入っていった。

「あれでも、貴族の令息かよ…」

「冷たすぎるよな…顔は女みたいな奴だけど」

遠巻きに見ていた男子生徒が呟いた。

「あれは女の顔をした氷のような心の人間だよ」

氷の王子アイス・プリンス…ってか?」

「いやいや、それを言うならやっぱアイス・プリンセスの方が似合っているんじゃない?」

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