014. 計画
その後のディーデリヒの行動は素早かった。
何度も学園の寮を抜け出しては王宮で根気よくアルフェリスを説得した。何度も話を聞くうちにアルフェリスはディーデリヒとだけは話をするようになった。
それでも「はい」か「いいえ」くらいのものだった。
―アルフェリスはなかなか心を開いてくれないな…でもそろそろ…―
ディーデリヒはアルフェリスに学園に戻ることを勧めることにした。
「アル…顔色もよくなってきたようだし、学園に戻らないか?確かに不安は残るが気分転換にもなるんじゃないかな」
「……」
いつものように話はしないがアルフェリスはしっかりとディーデリヒの言葉を聞いていた。
「父上にも学園のことを全て任せてもらった。だから怖がらなくていいんだよ」
「……」
ディーデリヒはいつもだったら説明はなくても「私がアルフェリスを守る」みたいなことを言えばたいていが「はい」と首を縦に振ってくれていた。
ディーデリヒは深い溜息を
「どうやら本音の話をしないとアルは返事してくれそうもないね…今回ばかりは」
「……」
「わかったよ」
ディーデリヒはアルフェリスのベッドに腰かけて話を始めた。
「この話はリアムとだけしかしていない。だから君もまだ誰にも話さないで、いいね?」
「……」
ディーデリヒの言葉にアルフェリスは大きく頷いた。ディーデリヒは優しく微笑みアルフェリスの頭を撫でた。小さな子どもをあやすかのようなディーデリヒの仕草にアルフェリスは撫でられた頭を触り、頬を膨らませた。暫くの間意識不明が続きその後も倒れたこともありアルフェリスはすっかり『儚げ』という言葉が似合う容姿になっていた。
「まるで女の子「……」」
ベシッ
「痛っぁー!」
アルフェリスはディーデリヒを叩き睨みつけた。
「すみませんでしたぁ。話は戻すから…」
そう言いながらもディーデリヒは小さく呟いた。
「それで…今のままアルフェリス・ローゼン・エバーグリーンだと休学ということにしてあるから“専門教育課程”に進学しなければならない。騎士科から魔法科に異動することは容易いが魔法のことを殆ど勉強してこなかったところにさらに途中からでは追いつけない可能性がある…それはわかっているよね?」
アルフェリスは頷いた。
「見た目がそれだけ変わってしまっていると学園に戻っても誰もアルフェリスとして認識してもらえないかもしれない。さらに今ではもうあの日の〈事故〉は些細なことで過去のことにされているんだ。アルフェリスは怪我もしていないし、目が見えなくなってもいない。余計な憶測が飛んで今はアルフェリスは公務で学園に戻れないと噂されている」
アルフェリスは首をかしげてディーデリヒがいるであろう方向を見つめた。
「だから…“初等教育課程”の三年生に編入するんだ。見た目が全く違うから誰にもその姿がアルフェリスとはわからないだろう。“初等教育課程”に在籍できるのも六か月ほどある。学園生活にも慣れるだろ?」
「……」
「少し気分転換の気持ちで名前を変えて別の人間になるんだ。違う自分を楽しむんだ。学園を違う方向から見れば何かが変わるかもしれない」
「……」
「話を聞きながら睨みつけるのはやめなさい。かわいい「……」」
ドスッ
アルフェリスは思いきりディーデリヒの腹に拳を入れた。ディーデリヒは苦痛に顔を歪めた。
「お前ねぇ…まぁかなり魔力の制御もできているしこれなら学園に行っても大丈夫だろう。他に何か望むことはあるかい?」
「……ない……」
ポツリとアルフェリスは呟いた。目を覚ました時からずっと笑うことも悲しむこともなく表情を失くしてしまっていた。
「…どうすれば君は笑ってくれる?泣くことさえも忘れてしまったかのようだ…私は君の笑顔を取り戻したい…」
少し淋し気にディーデリヒは話した。
フッと微笑むとディーデリヒはアルフェリスの頭を撫で立ち上がった。
「それじゃ、学園に戻るのは七日後…いいね?」
「…あ……と……-ン……様」
か細く途切れるくらいの声でアルフェリスはディーデリヒに言葉を発した。
それだけアルフェリスに話すとディーデリヒはアルフェリスの部屋を出た。
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