012. 魔力測定
アルフェリスの精神状態も症状もよくならないまま十日が過ぎた。
学園の入学式が終わり、生徒会の活動も落ち着いてきたばかりだった。
この頃になってリアムとディーデリヒが生徒会執務室で二人になった時ポツリと呟いた。
「なぁ、ディーン…アルフェリス殿下の症状って頭痛に
リアムの何気ない言葉に今まで感じていなかったことを突然言われたディーデリヒは目が点になっていた。
「そうだった…すっかりその可能性を忘れていたよ。リアム・エアハルト君ありがとう!」
ディーデリヒは満面の笑みを浮かべた。
「…というわけで…私は寮を抜けさせてもらう。用が済んだら戻るけど後は任せた、リアム…」
リアムもディーデリヒに答え、にっこりと笑いながら片手を挙げヒラヒラと振った。
「早く行け」
ディーデリヒは王宮に戻ると早速アルフェリスの部屋へと向かった。
「アルフェリス、私だ。いいかい入っても?」
「……」
やはりいつものようにアルフェリスからの返事はなかった。ディーデリヒは黙ってアルフェリスの部屋に入った。ベッドの側に寄ると緋色の瞳がディーデリヒの立つ方向へと向けられた。
「アルフェリス…突然なのだが魔力測定を受け直さないか?何故私がこんなことを言い出すのか疑問に思ったかもしれないが。どうだろう?」
アルフェリスはディーデリヒを見つめ黙ったまま話を聞いた。
「学園の生徒会長であるリアム・エアハルトは君も知っているよね?彼が私の話を聞いて君の今の症状が〈魔力枯渇〉が原因ではないかということを教えてくれた。確かに騎士科の生徒には魔力を多く使うことをあまりしないからすっかり忘れていたんだ。〈魔力枯渇〉であればすぐに改善できるだろう…だから受けてみないか?」
アルフェリスはディーデリヒの提案に大人しく頷いた。
アルフェリスの返事ですぐに魔力鑑定の準備がされた。この国においては五歳の誕生日を迎えると誰もが魔力鑑定を行う。アルフェリスもディーデリヒも受けていた。アルフェリスが五歳で受けたときには一般的な大人の騎士が持つ魔力量の一、五倍ほどを持っていた。だが、魔導士のような魔力を多く使うまでの魔力量ではなかったためアルフェリスもディーデリヒも騎士として貢献しながら王族としての役割を果たすつもりでいた。魔法と関わることより剣術や戦術を重点的に勉強していた弊害でもあったかもしれない。魔力は多くあるといっても無意識にただ剣をふるうとき強化していたり、防御率を上げていただけのものだったこともあり無駄に魔力を使いながらの剣術だった。それも日常生活に影響を及ぼすまでにはならなかったから誰も気づかずにいた。そして今になってその漏れるように魔力を放出していることで〈魔力枯渇〉を起こしているのだという結論にディーデリヒは辿り着いた。
魔力鑑定を改めて行ったところ、アルフェリスの魔力量は現在王宮に在籍する宮廷魔導士が持つ魔力の十倍はあった。さらにアルフェリスの魔力量は増え続けているということでディーデリヒはこのままにしておけばアルフェリスが魔力を制御できずに暴走をしてしまうだろうと思い対処を急ぐことにした。
ディーデリヒは父親である国王陛下にお願いをした。
「魔力が暴走をしないようにアルフェリスに魔力を制御するための家庭教師をつけて欲しいのです。…それとこれは後々のためなのですが、学園でのことを私に全て任せて頂けないでしょうか…」
ディーデリヒは神妙な面持ちで国王陛下の顔を見つめた。
「それは…あの日の〈事故〉に関してもか?」
国王陛下は言葉少なくディーデリヒを見つめ返した。ディーデリヒは黙って大きく頷いた。
「わかった…お前が思っている通りに片づけてみろ」
「ありがとうございます…必ず解決してみせます…」
ディーデリヒは国王陛下に一礼をすると国王の執務室を後にした。
―これでよし…学園内のことは多少私の権限でどうにかできる―
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