007. 覚醒 ―めざめ―

 学園では卒業パーティーまでもう間がなかったためいつの間にか休憩時間に起きた〈事件〉のことは生徒たちの頭の中から忘れられていた。

 生徒会でもいろいろ調査したが、結局誰がやったのかさえも判らず手詰まりだった。

 唯一の目撃者であった“初等教育課程”の三年生だったアルフェリス・ローゼン・エバーグリーンはいまだに目覚めずにいたから、詳しい話も聞けずにいた。

 卒業パーティーには支障がないと判断した生徒会はそのまま準備を進めることにした。

 生徒会として仕事をしなければならなかったディーデリヒは何度も学園を抜け出してアルフェリスの様子を見に行くがその度に落胆した様子で学園の寮へと戻ってきたディーデリヒを見ていたリアムは深い溜息をいた。

「今日もまだ彼は目覚めないのか…」

 リアムもディーデリヒを前にするとそんなことは言えないがただ黙ってディーデリヒの背中を撫でていた。

 二人は静かに頷いた。


 卒業パーティーも何も起きることなく無事終了し、春期休暇始まろうとしていた。それぞれ生徒たちも故郷へ戻り休みを謳歌しようとしていた。

 本来であればアルフェリスは“初等教育課程”の三年生で卒業であったが、ディーデリヒは学園にはそのまま休学扱いとさせた。


 春期休暇始まりディーデリヒは王宮へと戻った。

 ディーデリヒが学園にいた間はアルフェリスの様子を執事から聞いていたがやはり変わらず目を覚ます気配がないことがわかるとディーデリヒはさらに落胆していた。

 日に何度もアルフェリスの部屋に顔を出し確かめていたが変わりがなかった。


 まだ目を覚まさないアルフェリスが眠る部屋。

 目を覚まさないからとは言っても毎日窓のカーテンを開けたり、風を入れたりして外の空気を肌で感じられるようにはされていた。

 今日も変わらず同じように光を感じるように窓を開けた。

 その光に反応するかのように顔が動き、目が少し開いた。

 ちょうど部屋の窓を開けに来た侍女がアルフェリスが動いたことに気づきベッドサイドに近づいた。


 目を開いたが何故か真っ暗なままだ。

 どのくらい眠っていたのか頭はぼんやりして働かない。アルフェリスは何をしていたのか思い出せず、じっと暗闇を見つめていた。

 しばらく音もせず静かな状態だったのに、何かが自分の近くに寄ってきたのがアルフェリスはわかった。

 ―目を開けているのに暗闇のままなのはどうしてだ?…だけど何かの音が近くでしているのはわかる…―

 アルフェリスは次第にはっきりしてきた意識の中で考えていた。


 侍女は周りを見るように顔を動かしているアルフェリスを見ると何も喋らずそのまま部屋を飛び出して行った。

 アルフェリスには何が起きているのか全く分からなかった。

 目をつむりもう一度開けて見たり、一点に集中して目を細めて見たりしてみるがやはり変わらず暗闇しかなかった。

 ―今まだ俺は夢の中にいるのか…?―

 何も見えない苛立ちから少し投げやりな気分で考えていた。腕を上げて、てのひらを裏にしたり表にしたりするがやはり何も見えない。

 アルフェリスは深い溜息をいて上げていた左腕を自分の顔の上に乗せた。

 ―ここはどこだ?俺は…―




 バンッ




 勢いよく開け放たれた扉の音にアルフェリスは驚き肩を震わせた。

「アルフェリス!やっと目を覚ましたか?」

 突然大きな音とそのすぐ後に大きな声で叫んだ声にアルフェリスは畏怖の念を抱いて、声を出せずにいた。

 ベッドサイドに近づいてきた人はアルフェリスの様子に心配になった。

「どうしたんだ?アルフェリス…私だよ…ディーデリヒだよ…」

 ディーデリヒはアルフェリスの肩を掴んだ。

 アルフェリスは肩を掴まれたことにまた驚き怯えた。

「ディーン兄様…ですか…?」

 アルフェリスは掠れた声で答えた。

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