008. 拒絶

「ディーン兄様…ここはどこですか?」

「どこって……王宮のお前の部屋だよ…」

「…そうですか…何故俺は王宮の部屋に…?」

「何故って…アルフェリス…何も覚えて…いないのか?」

 ディーデリヒの質問に答えられず首を傾げてアルフェリスはディーデリヒの顔を見ようとしていたがディーデリヒと目を合わせることができなかった。

「どうしたんだ?アルフェリス?」

 少し様子がおかしいと思いながら話すことはできたのであまり気に留めずディーデリヒは話し始めた。

「アルフェリス…お前は学園で昼の休憩時間に起きた〈事件〉に巻き込まれて…ずっと意識がなかったんだ」

「あれからどのくらい俺は眠っていたのですか…?」

 ベッドに横たわるアルフェリスの頬をディーデリヒは優しく撫でた。

「もう春期休暇が終わるがアルフェリス、今までずっと眠ったままだったのだ。すぐに学園に戻るのは無理だ。きちんと休養をとって…。…それと…レオンハルトがとても心配して会いたがっていたぞ」

「…ディーン兄様…誰とも会いたくありません…」

「えっ?」

 一月近くもの間目を覚まさずにいたアルフェリスは弱々しく掠れる声でディーデリヒを拒絶した。

「何故?!」

 ディーデリヒの突然の大きな声にアルフェリスはまた驚き怯えた。

 アルフェリスの様子にディーデリヒは黙り込んで見ていた。

 少し不安な顔をしてキョロキョロしたかと思えばホッと息をき、ディーデリヒの目を見ないように横を向いた。

 ディーデリヒはアルフェリスの不自然な仕草に疑問を持ち始めた。もう一度ディーデリヒはアルフェリスの頬に手を当ててみた。

「ひっ!?」

 アルフェリスの変な声とともにパシッとディーデリヒの手は払いけられた。まるで殴られるのを腕で庇い守ろうとしているアルフェリスの態度に驚きつつディーデリヒは再びアルフェリスの頬に触れた。

「何を怯えているんだ?何も怖がらなくていい…」

 それでもアルフェリスはディーデリヒの手を払いけた。

「ディーン兄様…申し訳ありません…。一人にして下さい…」

 アルフェリスは冷たくディーデリヒに言った。

 仕方なくディーデリヒはアルフェリスの部屋から出た。


 アルフェリスはディーデリヒが部屋を出る足音を聞いていた。扉が閉められ部屋の中にまた静寂が戻ってきた。

 ―ああ、俺はあの日あの爆風に巻き込まれたのか…―

 目が覚めて時間も少し経ったからなのかアルフェリスの頭の中はだいぶはっきりしてきた。

 アルフェリスは静かになった部屋の中でベッドに横たわり一人考えていた。

 独りになってみると今更のように不安が広がり自然と涙が溢れた。

 あの日の〈事故〉からやっと目が覚め目の前に突きつけられた現実に思考が追いつかなかった。何を真実として受け止めればいいのか…、部屋からはアルフェリスの嗚咽が漏れていた。


 アルフェリスが目を覚ました翌日にレオンハルトが登城した。

 しかしアルフェリスは会おうとしなかった。

 食事も取らずただベッドに横たわって目はうつろだった。

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