004. 困惑
定時よりも少し遅れて午後の授業が開始された。
事故の喧騒も鎮まり、カフェテラスと中庭には生徒が誰もいなくなった。
卒業パーティーの準備もだいぶ整い当日の食材の搬入や警備体制の確認のみだったのに、パーティーそのものを中止せざるを得ない事態に直面してしまっていた。
生徒会メンバーは生徒会執務室へと集まっていた。椅子に座り誰ともなく深い溜息を
広報係で平民・魔法科の一年生のリタが黙って紅茶を淹れたカップをテーブルに置いた。生徒会長のリアム・エアハルトはそのカップを取り一口紅茶を飲んだ。
全員が沈黙した状態で時間ばかりが過ぎてしまうと、リアムは一呼吸おき話し始めた。
「突然の出来事で皆びっくりしたと思うが素早い対応ご苦労であった」
リアムは一旦言葉を切ると生徒会執務室にいる生徒会メンバーの顔を見回した。
「先程起きたことは休憩時間の終了間際で、ちょうどダンスホールから戻る生徒もいて人が多かった。生徒たちに話は聞けたか?」
金髪碧眼で平民、魔法科の一年生のリュシオンはまとめたメモを見ながら報告した。
「僕が確認できた生徒たちからは『眩しく光ったから何かと思って見ようとしたすぐ後に大きな音がした』と話す程度しか…。他の生徒からの話も
「私が聞いたのもほとんど同じでした。これ以上の詳しいことは…」
サーシアム・ベルンハルトも頷き眼鏡のブリッジを右の人差し指の腹で押さえながら持ち上げた。
生徒会長のリアムと副会長のディーデリヒは彼らの報告を聞くと顔を合わせ溜息を
「やはりか…」
リアムとディーデリヒ以外の生徒会メンバーはカフェテラスと中庭で騒ぐ生徒たちを収めるために、レオンハルトとセレストと倒れていた少年のいた場所から離れていた。中心にいた彼らのことは詳しく知らない。
「こちらもはっきりとしたことはまだ分かっていない。救護室に連れて行った三人からは情報は聞けなかった…、芳しくない」
リアムが少し困惑した顔をして呟いた。
「と、言いますのは…?」
会計係で文官科二年生のカミラ・ルーデルスが慎重な声で聞いた。
「うん、救護室ではまだ話ができるほどではなかった。まずは…“初等教育課程”の三年生、レオンハルト・バートシェンナ君と同じく“初等教育課程”の二年生、セレスト・フランゼン嬢の二名は傷はなかった。しかし放心状態で話が聞けなかった。今日はもう寮で休むように伝えたが二〜三日かかるだろう…。もう一人は…こちらも“初等教育課程”の三年生だ…、ディーンの弟…アルフェリス・ローゼン・エバーグリーン君だ。彼に至っては目を覚ましていない。この状態では学園に身をおくのは無理だと判断した」
「アルフェリスがいつ意識を取り戻すか、怪我の状態も分からないので王宮に移すことにした。学園に戻れるようになるまでは休学扱いとなる…このまま学園に戻れない可能性も…」
リアムの救護室での説明の後にディーデリヒも王宮の使いの者とのやり取りで話したことを生徒会メンバーに話した。
「取り敢えず現状ではこれ以上の詳しい情報はない。それに卒業パーティーも迫っている…。騒動はもうないと思うが警備体制の強化をしよう。…それからこの話は誰にも漏らすな。『悪戯だった』と学園長には報告するがな…」
リアムは生徒会メンバーの顔を睨むように見つめた。生徒会メンバーはリアムの背中に冷たい気配を感じていた。
リアムに横でディーデリヒだけが悠然と紅茶を飲んでいた。
ー事件から七日後ー
レオンハルト・バートシェンナとセレスト・フランゼンの二人は生徒会執務室
へ呼ばれた。
レオンハルトは一応落ち着きを取り戻してはいたが顔色がまだ少し青かった。セレストは何かに怯えている表情だった。そんな表情を見せながらも気丈に振る舞っていた。
「調子はどうかな?話を聞かせて欲しい…。あの日何があったのか…?」
リアムはレオンハルトとセレストを気遣いながら聞いた。
「アルフェリス様は?」
レオンハルトはリアムの問いには答えずに聞き返した。
ふーっと息を
「君だから嘘はつかないよ、レオンハルト。君たちが寮へ戻った後も意識は戻らなかった。だから王宮へ…」
レオンハルトはディーデリヒの言葉を聞き漏らすまいとじっと彼の顔を見つめた。
「王宮へ戻ってからもまだ目覚めていない。だが落ち着いてはいる」
ニッコリ笑ってディーデリヒがレオンハルトの顔を見た。レオンハルトの気持ちが冷静になったのか彼は涙を流した。
「今までカフェテラスと中庭の調査をしたり、他の生徒たちから話を聞いたが詳しいことはわからないんだ。君たちの話を聞かせてくれ」
リアムが頭を下げて懇願したがレオンハルトとセレストは困惑した顔で見合わせた。
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