002. どうやら《非日常》が訪れました。

 毎日が同じようにそれでも少しずつ何かが違うように、穏やかに緩やかに日々が過ぎていた。そんな学園も卒業シーズンが近づき、生徒たちも嬉しさに浮き足立っていた。その風景さえもが毎年恒例の行事で学園の変わらない風景の一部だった。

 学園の生徒たちもいつもと変わらず校舎の一階にあるカフェテラスやそこからつながる中庭でいつものようにランチタイムを過ごしていた。

 年間を通して緑が溢れているエバーグリーン王国で、特に王都・ノーザンスカイは青空に恵まれる日が多く、雨が降ることはあまりない。この日も青空でに当たり緑色がキラキラと輝く木々の葉がさわさわと優しい風に揺らいでいた。


 卒業パーティーは生徒会主催で行われる行事ではあるが“初等教育課程”の三年生と“専門教育課程”の三年生が卒業対象者のため、パーティーの規模が大きい。そのため在学生たちの実行委員会が組織され、生徒会の指示のもと準備を行なっていた。

 中庭から抜ける道が卒業パーティーの会場となるダンスホールへと向かう近道になっているため、中庭で優雅におしゃべりをして過ごしているのは、四〜五組の卒業生カップルくらいだった。


 ちょっと騒がしいカフェテラスを避けるかのように離れた場所にある木陰に、ベンチがひとつ置かれていた。

 そのベンチに仲良くカップルが座って楽しくおしゃべりに興じていた。

 薄緑色の髪の毛にスッキリとした顔立ちで琥珀色した瞳が隣に座った彼女に優しく向けられた。彼はこの春、“初等教育課程”を卒業して“専門教育課程”の魔法科へ首席で進学することになっていた。

 彼の名前はレオンハルト・バートシェンナ。バートシェンナ侯爵家の子息でありバートシェンナ家当主はこの国の宰相を務めている。レオンハルト自身もこの国の第二王子と同じ歳で、彼と幼馴染みであり側近として育ってきた。

 もともとレオンハルトは目鼻立ちも良く多くの女子生徒たちからの評判もいい。侯爵家の子息ということもあり婚約者希望が殺到していた。それでも学園に入学した頃はそばに婚約者がいなかったので、狙う女子生徒も多かった。その後彼の婚約者が入学するとそういうことも少し収まっていた。

 レオンハルトの隣に座っている女の子は、彼の一歳下の婚約者でセレスト・フランゼンという。セレストは伯爵家の令嬢で幼い頃から一緒にいたレオンハルトが大好きだった。

 セレストはふわりとウェーブのかかった薄紫色のロングヘアを風に揺らし茶色の瞳を細め、顔をあかく染めていた。

 セレストにとってレオンハルトは一番近くにいる他人で《大好きな少年》であるが“初等教育課程”を卒業し“専門教育課程”に行ってしまうことに大きな隔たりがあるように感じ不安に思っていた。

 レオンハルトにもセレストの不安はよく分かり、傍に居られる限りはセレストと共に時間を過ごしていた。二人は周囲のことは気にせずにずっと話していた。

 彼ら二人だけではなく他の誰も周りに注意を置くことがないほどに。穏やかすぎる場の雰囲気そのものに《油断》があった……としか言いようがない状態だった。



 突然、中庭で目を覆う程の閃光が走った。中庭とカフェテラスにいた生徒たちが皆、光に目を奪われ目を閉じた。腕で顔を覆う生徒や閃光に背中を向ける生徒もいた。

 パァーン!!

 間髪入れずに大きな音が鳴り響いた。


「「「「「きゃーーー!」」」」」


 閃光に気を取られていた所為せいもあり、あちらこちらから女子生徒たちの悲鳴が中庭に響き渡った。誰にも何が起きているのか判らず怯えている生徒もいた。離れた場所で一早く気づいた生徒たちは中庭へと集まってきた。その場にうずくまり泣き出す生徒たちもでてしまい、収集のつかない状態となってしまった。

 すぐに気がついたレオンハルトはセレストを抱き寄せて、気を失っているセレストの身体を揺さぶった。

「セレス!」

 レオンハルトの声に応えるようにゆっくりセレストが目を開いたのを確認すると、レオンハルトは少しホッと息をいた。

 レオンハルトは彼女を抱き起こしながら、周囲が気になり目を向けた。

 もともと座っていたベンチからレオンハルトとセレストは十メートルほど離れた場所に倒れていた。

 琥珀色の瞳を細めながらさっきまで自分たちが座っていたベンチの辺りを見つめた。

 ベンチのすぐ傍に立つ樹の方に瞳を向けると人が倒れていることに気がついた。レオンハルトは慌てて駆け寄った。

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