せめて日常は穏やかに暮らしたい…。

おーろら

001. プロローグ


 ーお前は誰だ?ー


 何度も同じことが繰り返される光景だった。同じストーリーを見せられた少年は、目覚めることさえあきらめかけていた。

 真っ黒な闇の中に一人佇み、輪郭りんかくしかない人の形に黒と緑色の入り交じった顔が少年に向けられた。表情が全くないのに少年はそのモノが彼に対して憎しみが込められているのが何故か解った。

 何故自分に憎しみが向けられているのか…少年自身には全くわからなかった。夢が長く続き、今では現実なのか幻なのかそれさえもわからなくなった。夢の中で最初は抵抗していたが、いつまで経っても終わらない。いつまで続くのか…と考えるようになると、抵抗することに疲れ切ってしまっていた。

 何も考えなければ、何も感じなければこの悪夢が、この全てが終わるのだろうか…?






 青空高く澄み渡る空気、緑溢れる大地が広がる。

 大陸の半分近くを占める国、エバーグリーン王国。その国の中心部に位置するのがこの国の王都・ノーザンスカイだ。

 王都・ノーザンスカイはとても活気があり街中で暮らす人々も笑顔だった。王都の街壁すぐ近くには森があり、その森は王都に住む者たちから『悪魔の森』と言われている。本当に悪魔が棲んでいるわけではないだろうが、『悪魔の森』へ踏み込んだ冒険者たちは二度と帰ってくることはなかったからだ。もし森から生きて帰ってきたとしても精神に異常をきたしていた。話は通じない、目の焦点が合っていない、狂うなど異常な行動をするようになるというものだった。

 そんな森がすぐ側に接していたが、不思議なことに森そのものが《意思》を持っているかのように『悪魔の森』から魔物が出てくることはなかった。そんな森が接している王城は城門からしか入れる場所はない。城門から延びたみちにも木々が生い茂っている。エバーグリーン城は自然に囲まれた要塞だった。そのみちを通り抜けると貴族が住む屋敷街が広がり、その先には平民が住む家や市場・店舗が建ち並ぶ。その貴族の屋敷街と平民の家の間には、十歳から十五歳の子どもたちが通う学園がある。エバーグリーン王国では他のどの国よりも早くから、社会的差別がないように十歳を迎える全ての子どもたちに教育を施すようにする政策を打ち立てていた。

 十歳からの三年間で受けられる教育が普通に暮らしていくための知識が十分に習得できた。

 エバーグリーン王国の中で王都にある『王立エバーグリーン学園』は大きな学園であり、貴族の子息や騎士家の子息、商家の子息、平民の子どもたちが身分に関係なくが多く通う一番人気の学園だ。この学園が人気なのは十歳から始まる“初等教育課程”の三年間だけではなく、“専門教育課程”の三年間の教育が受けられ卒業するとそれぞれが望む職場へ就職できるからだ。他の学園は十歳〜十二歳まで“初等教育課程”を勉強し卒業となり、その後騎士になりたい子どもは『騎士学校』へ進み、魔法を学びたい子どもは『魔法学院』、補佐官や秘書、家宰などを望む子どもはその方面の学院へと進みその資格を得なければならない。エバーグリーン王国での成人となる年齢が十五歳だ。




『王立エバーグリーン学園』では十歳〜十五歳の子どもたちが貴族・平民関係なく全員が寮で暮らす。十歳〜十二歳の“初等教育課程”の子どもたちは三〜四人の相部屋となる。相部屋の部屋は扉を開けると小さな応接間がある。応接間を挟んで両脇に二つずつ扉がある。その扉の向こう側がそれぞれの個室となっていて、ベッドと机がある。

 十二歳で“初等教育課程”を卒業後、十三歳〜十五歳は“専門教育課程”になり、平民の半分以上が減り一人ずつの個室になる。もともと“専門教育課程”になると、野外活動や訓練実習などがあるので、個人で寮の部屋に戻る時間が違ったり部屋を留守にするからという理由で一人一部屋ということになる。

 “専門教育課程”には騎士科・魔法科・文官科・貴族科があり、騎士科は武術の技能が高い生徒や騎士の家系だったり、王宮の騎士団に入りたいという憧れからその道に進むことが多い。魔法科には魔法が得意だったり、回復師や魔法に勉強または研究をしたい生徒が進む。王宮の官僚や補佐官や秘書・家宰を目指す生徒は文官科へと進む。

 少し特異なのが貴族科だった。貴族科はその名の通り貴族の子息・子女のみが進めるコースである。本来ならば親の爵位を継ぐ生徒や領地を持つ貴族は領地経営などを勉強をするところなのにどう捻じ曲がったのか勉強のできない貴族の《見栄》と《お金》で抑えているということも否めなかった。

 それが王都・ノーザンスカイにある『王立エバーグリーン学園』だった。

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