第4話 ラブレター

昨晩は私立体育館でスタジオプログラムのレスミルズのボディコンバットをした。常連の彼女は勿論、自分より先にいた。挨拶なり会釈なりしたかったが、彼女は同じ常連さんと会話をしていた。中々、「こんばんは」の一言が言えない。面識しかない彼女との距離は遠い。しかし、その距離を縮めることが出来たら、それだけで楽しく想えるだろうなと思いながらストレッチをして、スタジオ入場まで待った。待ちながらチラチラ彼女を見た。見た感じはやはり大人の女性。二十代という感じはしない。いや、ボディコンバットが好きということはおそらく五年、十年はやっている。特に最前列を好むところから察するに動きには相当自信があるはず。古いコリオを知らないと当然、旨く動けないから逆に変な目立ち方をする。最前列は後列の人たちの手本にもなれる。自信がないと最前列には中々いけない。自分もボディコンバット歴は十五年ぐらいはやっていると思うが、おそらくそれに近い年数をやっているのではないだろうか?すると二十代後半から始めても四十前後になる。

「やはり主婦か、それとも彼氏と同棲ないし、事実婚なのかな」

そう思うと、あまり気ばかり逸っても主婦に手を出す間男になってしまう。でも、もし挨拶を交わすことが出来て、立ち話を二言三言話したら、自分の性格上、思い立ったら吉日。彼女との距離を一気に埋めるべく、一番気になることを聞いてしまうかもしれない。そう一番気になることとは、男の有無だ。旦那、彼氏、それに近い存在がいれば、恋は終わる。でも、たとえ男がいても、人を好きになる気持ちはとても素晴らしいと、彼女を想うことでわかった。ほんと恋をさぼっていたわけじゃない。ただ女性が周りにいないときを十年、いや二十年もこの東京で味わっていた。それを彼女は久しぶりに恋をするということを目覚めさせてくれた。そう思うと彼女が女神にも見えてくる。そう思い込む。これが自己洗脳なのだろうか。

でも、わかったことがある。それは恋をすると脳の活性があがるのだろうか、彼女を想うとアイデアが閃き、言葉が溢れる。何か饒舌に話せる気がする。これも恋がもたらす効力だろうか?それとも人を愛することから遠ざかっていた脳が知らぬ間に愛情の酸欠状態だったのだろうか?いい年して気持ち悪いことを書いている気がするが、ただ恋をするといくつになっても気持ちが高鳴る。

でも、現実は昨晩も挨拶一つかわせなかった。彼女は未だ妄想の中にいる。妄想から飛び出しては来ない。彼女は気が強い人なのか、どういう雰囲気を持った人なのか、どんな話し方をする人なのか、そんな些細なことさえ、未だ手に入れてない。

しかし、これが自分と彼女との距離。

「この距離、果たしてうまるのか?うまるとすれば、一体どういう形で、どういう風にうまるのだろうか。それともうまらず、何も変わらないのだろうか」

そう、一歩踏み出すには勇気が必要。

ドラマもそう。作る気になって作らないと決して作れない。

恋もまた、始める気になって始めないと何も始まらない。

今はただ「こんばんは」と挨拶。それだけでいい。思い立ったら吉日はいいことだが、急いては事を仕損じるという言葉もある。結局、諸刃の剣なのだ。自分にはこれといった剣はない。まずは親しくなること。必ず挨拶できるチャンスがあるはずだ。それが今の自分の一歩。そして着地点は親しく馴れればいい。あまり込み入ったことは聞くな。それは二の足を踏むぐらいが丁度いい。挨拶だけでも十分前進。今夜も彼女に届かぬラブレターを書く。今はただ自分の気持ちを記しておこう。


第五話は、あるかどうか・・・。

そう、挨拶をかわさない限り、何の進展もない。

けど、恋する気持ちは持っていたい。ほんと言葉が溢れ出る。これはまさに恋の効力に他ならない。そして、モチベーションにもなる。

「おつかれさまでした」と言えるチャンスはきっとある!



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