第10話 東の森6

「これは……」


「おそらくマリウス様の近くにいる生き物の視界を映してる。マリウス様はお力が私より強いから術が完全に作動しなかったんだわ」


 アリスが今発動させた術式はミラージュの応用だ。対象の視界を術で創り出した幻の鏡に映し出す。ただし、対象が術者より優れた魔術師だった場合、対象の視界ではなくその近くにいた者の視界と接続される。暫定的に術が対象者を指名し直しているため、正常な術の動作ではない。つまり、すぐに効果が切れてしまう。


 術が仮動作している間に彼が今どこにいるか把握しなくてはならない。


「離れたところにはいないと思う……」


 少なくとも、彼女たちより深いところにはいないであろう。映し出される周囲の景色を見て、そう判断する。


 その予想は間違っていなかった。唐突に近くで爆発音が響く。地面の震えで立っていられなくなり、しゃがみ込めば爆風で息ができないほどだった。


「ロイ、行きましょう!」


 爆発が起きたところにきっとマリウスがいる。整地されていない足元に四苦八苦しながら進む。


「マリウス様!」


 地面に倒れ伏したマリウスを、アリスが駆け寄るより先にロイが助け起こす。意識を失っているようだ。呼吸を確認する暇もない。


 爆発を起こした正体を前では、逃げの一手しか許されない。


「ストロベリードラゴン……!」


 ストロベリーという可愛らしい名前とは裏腹に、その気性は恐ろしく荒い。いつもは屋敷の遠くを飛んでいる姿しか見たことがないが、誰に説明されるまでもなく、そのドラゴンは人間などにどうこうできるような存在ではない。


 鼻息ですら熱風で肌を焦がさんばかりだ。成人男性より一回り大きい程度なのに、ひとたび暴れれば簡単に町一つ焼失させられる。本来であればこの森にいる種ではない。迷い込んだのか、何か事情があるのか。それは定かではないが、ラインズがいない今、アリスたちが逃げ切れる可能性は限りなく低かった。

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