第9話 東の森5

 心の中で、将来の目標にロイの意識改革と待遇改善を書き加えつつ、落ちてきたところを見極めようと頭上を仰ぐ。しかし木々はねじくれ、不気味に動いている。東の森の木には意思が宿っている。人々からそう言われている理由がよく分かる。時折幹が身震いするように動き、枝は有り得ない方向に撓しなる。これではどこから落ちてきたかよく分からない。そして、いくら空にいるであろうマリウスとラインズを見つけようとしても、木々がそれを阻んだ。


「困ったわね」


「マリウス様も恐らく落下したものと思われます。ラインズが走り去る後姿を見ましたが、その背には誰もいらっしゃいませんでした」


「ラインズが暴れたから別の方向に飛ばされてしまったのかしら。怪我をしていないといいれど」


「いかがなさいますか? マリウス様を見つけに行くか、一度屋敷に戻って応援を呼んでまいりましょうか?」


「うーん……」


 どちらを選ぼうとも、かなり難しい状況にあることは明白だった。


 そもそもラインズがいたからこそ、ここまで森の奥まで進んで来ることができたが、人の脚では戻るまでに半日以上はかかる。


「マリウス様を、まず探しましょう。彼もきっと私たちを探しているはず。一人で心細いはずよ」


「承知いたしました」


 いくら魔術に優れていて、歳不相応に大人びているとしてもアリスから見たらマリウスはまだまだ子供だ。そんなタマですかね、というロイの口からこぼれたとは思えないほど棘のある呟きに気付かなかったふりをして、簡単に魔方陣を描いた。空中に浮かぶそれに最後の一文字を書き込むと自動的に術が発動する。


 目の前の魔方陣が鏡のように形を変え、やがてどこかの風景を映し出す。


 

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