第11話 東の森7
ロイが抱えている反対側のマリウスの肩を持ち、走ろうとして転ぶ。足の感覚がない。見れば、酷い火傷を負っていた。爛れているのに痛みが感じられない。
ハッ、ハッと荒い息をしている自分に気付く。過呼吸になりかけていると頭の片隅の冷静な自分が言うのに、どうしたらいいか分からない。
「アリス様……ッ、お嬢様! お逃げください!」
ロイの声が遠くに聞こえる。こんなに近くにいるのに。そんな悲壮な顔をさせるために私はこの子を引き取ったわけではない。
"吹き飛ばせ!"
踵を返し、ヴェール級の簡易魔方陣を複数展開させて詠唱する。ほとんど子供騙しのようなものだ。ストロベリードラゴンの艶やかな緋色の鱗には傷一つ付かなかった。縦長の瞳孔がひたとアリスを見据える。こんなところで死んでたまるものか。私にはまだ、やらねばならないことが山程あるのだ。
黄ばんだ牙を剝き出しにして、ドラゴンは咆哮する。
知らず知らずに目から涙がボロボロと流れ落ち、そしてあまりの己の無力さに絶望した。
"――、――――!!"
ドラゴンの牙が眼前に迫り、思わず目を閉じてしまいそうになった、その時。
突然、誰かの詠唱が響いた。途端に、ドラゴンを取り囲むように紫色の魔方陣が何重にも展開される。
まさか。ヴァイオレットの魔方陣を使うだなんて。
ハッとロイとマリウスの方を振り返ろうとして体勢を崩す。地面に這う。背後でドラゴンの恐ろしい絶叫と焦げる匂いがした。耳を押さえることもできなかった。
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