恋慕

海津大崎の母

親愛なる国木田様へ

突然のお手紙ごめんなさい。


まずは私から新郎新婦への祝辞を、

この度はご結婚、おめでとうごさいます。


可笑しな話でしょう、あなたをこっぴどく振った、愚図な女がこのような手紙をだしたこと。


どうか、どうか、最後までお読みください、

私はあなたに伝えなければなりません。


憶えていますでしょうか、私たちがまだ青春の時間の中にいた頃を。

あなたと私が恋人同士であった、あの時です。

そう、市立第三高校二年。

この手紙の目的は私があの時犯した、罪。

それの懺悔と謝罪をいたします。


当時、あなたは中心人物でしたね。

クラスでも部活でも。

そんなあなたは、女子生徒たちの憧れでした。

もちろん、私もそうでした。


ただ、あなたは一人しかおりません。

つまり、一人しか恋人にはなれないのです。

複数なんて選択肢は、真面目で誠実な、あなたには毛頭なかったでしょう。


そんな中、あなたは私を選んでくださいました。

そのきっかけを憶えておられますか。

そう、それこそが私が犯した罪なのです。

今から全てお伝え申し上げます。


私には、重病の妹がおりました。

妹といっても、双子です。

それもまるで写し鏡のように瓜二つ、

親でさ見間違えるほどの、同じ容姿でした。


しかし、妹は産まれた時から重病を患っており、

大人になるまで生きれないだろう、

そう言われつづけており、無論、学校などには一度も通ったことなどございませんでした。


ですから私は、病院で妹にその日の出来事を話し、少しでも妹に楽しんでもらおうとしました。

一生体験出来ぬ、青春というものを。 


妹に話した出来事のなかにはもちろん、あなたのことも話しました。

するとどうでしょう、妹はあなたに興味をもってしまいました。

しまいには学校へ行ってみたい、そう言ってきかなかったのです。


姉としては複雑ですが、妹の気迫に負け、一日。

両親やお医者さん、周りを欺き、

たった一日のみ、交代いたしました。

私は妹に、妹は私に。


妹のフリをしていた私は不安でいっぱいでした。

病院のベット以外の世界を知らない妹にとって、 外の世界に出るということは、まるで子犬が荒野を往くもの。

不安にならずにはいられませんでした。

しかし、私の不安は別の形で現れてしまいました。


それは妹があなたに告白したことです。

しかも、それにあなたが応えてしまった。


後日、そのことを妹から嬉々として聞いたときは、焦燥感、喪失感、いいえ。

紛れもない嫉妬が、私の心を壊しました。

その後のことはよく憶えておりません。

ただ、妹に対し思いつく限りの罵詈雑言を喚いたと記憶しております。


それから一度も、妹の元に訪れることはありませんでした。

最後にみた妹は死体でした。

入れ替わりの十日後に。


そうしてただ私に残ったのは、敗北感のみで築き上げた理性と、妹の灰でつくられたあなたとの関係。

しかし、あなたはそんなことに気づかず、

恋人として私に接してくれましたね。

ほんとうに、ほんとうに、その誠実さが辛かった。


だからこそ、私はあなたを消したかった。

なのであなたを罵倒し、こっぴどくふりました。

申し訳ございませんでした。


これが私が犯した罪でございます。

最後まで、手紙を読んでくださりありがとうございました。

私も、灰となった妹も、ずっと、ずっと。

あなたをお慕いもうしております。













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