第4話

 何ヶ月が経過したのだろう。


 マリアの施術は無事完了し、ガンマ線照射の段階に入った。私は博士から、ありとあらゆる機械の使用方法を教わった。そして、それが済むと、博士はぱたりと亡くなった。協会にその旨を伝えると、私は博士の亡骸を燃やして、骨を風に撒いた。


 私は博士を少なからず恨んでいた。しかし、死に際の床で、博士は私に「マリアをよろしく」とだけ告げた。横を向いて寝ていた博士の背中は、不思議と大きく見えた。私は、涙一つ流さなかった。


 その後は、ただ空虚な日々を過ごした。一度は消えたはずの死への欲求が、またじわりと擡げてきた。研究室の隅に生けられた青い花は、とっくに枯れてしまっている。


 突然、けたたましいアラームが鳴った。長い十ヶ月が終わったのだ。マリアが出てくる。そう思うと、私の足はすぐに動いた。服を用意する。そしてお湯、丈夫な寝台、新しい布やタオル。

 ちょうど用意し終わった頃、機械の扉が開く。白い煙が蔓延する中、こちらを歩いてくる人影。お腹の辺りが膨れていた。もう少しで全てが成功する、私は確信した。


 黄金の髪が見える。以前のような艶はなかった。その瞬間にマリアは倒れ込んだ。私は咄嗟に支えて、寝台へと寝かせた。生命の誕生を、この目で見るとは思いもしなかった。


 博士から教わった方法を忠実に守る。その昔、産婆が出産に携わっていた頃のような方法。完全に機械化された現在において、時代錯誤なのが皮肉に思える。


 頭が出てきた。顔、手、腰、脚……。マリアは必死に息をしていた。私には一生分かりえない苦痛に顔を歪めていた。そして、赤い小さな命が生まれ落ちた。それはけたたましく泣いた。私はそれを湯にゆっくりと浸した。


 マリアは寝転びながらそれを見ると、笑った。指先を伸ばして、自分の子に触れた。赤ん坊は泣き止んだ。そして、笑った、ような気がした。




 光を辿った先には、幸福があるという。胎内という洞窟から抜け出てきた赤子は、果たして暗闇の先で幸福を見つけることができるのだろうか。


 私は、この星に骨を埋めようと決めた。


 マリアとその子どもたちが、この星で過ごしていくその姿を、最期まで見届けようと思う。










──To be continue……?

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光を辿る 悠鶴 @night-red

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