4話 魔術師が出発



「いざ、しゅっぱーつ!」



 屋敷に戻り、諸々の準備を整えた私は、使用人達に数日留守にする旨を伝えて、王都を出発した。

 屋敷を出る際、使用人総出で「旦那様に確認が取れるまでお待ちください!」と涙ながらに言われたけど、ちゃんと報告はしてきたと言って、無理矢理納得させてきた。


(皆、過保護なんだから)


 なんとも愛情に溢れた人達である。

 田舎にいる養父母を思い出し、少し胸が温かくなった。


(何かお土産でも買って帰ろう)


 なんて、呑気なことを考えながら、私は今、魔獣車に乗り、ドコドコと目的の村に向かって進行中。



「いや~、のどかだ~」



 深呼吸を数回繰り返して、ぐでーんと魔獣を抱き締めるように寄りかかる私は今、紛れもない【男】だ。


 女の1人旅が危険だということは、私だって理解している。

 でも、よほどの理由がないかぎり、私は複数人での仕事はしない。

 自由気ままにできず、なんだかんだと気を遣わなくてはいけないのが苦痛だからだ。そのため、今回も気ままな単独仕事なのである。


(女のままで旅してると、チラチラと鬱陶しく見られたものだけど、さすがに男だと全然見られなくて快適快適~)


 王城に勤めることになる少し前。

 旅の途中に男からチラチラ見られることが不快だと、アイテム職人の友人に告げた際、



『何当たり前のこと言ってんの? おマヌケなの?』



 と言われ、作ってくれたアイテムがこれ。


 リバーシブルタイプのフード付ローブ、【リバーチェンジローブ】。

 深緑色を表にすれば、性別そのまま。黒色を表にすれば、男に大変身。着ている間中、効果が持続する優れものだ。


 まぁ、正直、値段は血の涙が出そうになるほど高かったけど……。致し方なし。

 これを身に付け、男として旅をするようになってからは、実に快適なものだ。

 友人には感謝してもしきれないけど、このアイテムのローンはまだかなり残っている。そのため、給金が入っても懐はどことなく寒い。


(今日中に村には着けないから、この先の町で宿でもとるかな)


 勢いで王都を出てきたため、現在の時刻はすでに昼過ぎ。

 夜の移動は避けたいため、明るいうちに宿を確保したいところだ。

 運良く天気もいいし、この調子で進めば、あと3時間ほどで町に着くだろう。すばらしい時間配分である。


(明日は朝早く町を出て、夕方頃には村に着きたいな~)


 久しぶりの自由気ままな1人旅に、この時の私はすっかり浮かれていた。


 まさか、私がいなくなったことを知った夫が、私の上司を恐怖の支配下においているとも知らずに――。



「1人旅最高~」




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