第5話:自警団
「殿下のためなのです、全ては王太子殿下のためなのです。
殿下が下賤な聖女などを側室にしたくないと言われたのです。
寝室で、誰もいない寝室で、私にだけ本心を打ち明けてくださったのです。
殿下のために、王太子殿下のために暗殺をしようとしたのです。
私利私欲ではなく、全て殿下のためなのです」
精神が崩壊したフリード侯爵家令嬢アンが、こんなにスラスラと分かり易く話したわけではなく、要約すればこういう内容だった。
もちろん、精神が崩壊したアンが本当の事は話しているとは限らない。
王太子を恋するアンが、妄想の世界の事を真実だと思い込んでいる可能性もある。
だがその言葉を、クラスメイト全員と担任、もちろん聖女マリアンヌも聞いていたので、なかった事になどできない話で、王太子を取り調べなければいけなくなった。
「私は何もやっていないし、何も知らない。
アンが私の事を恋するあまり、妄想の世界の事を真実だと思い込んだのだ。
王太子の私の言葉を信じないのか?!」
王太子は取り調べを受けていたが、取り調べるのは貴族院の王家派貴族だった。
それも国王も含めた王族と侍従達が綿密に打ち合わせをして、事前に話す事を決めた、最初から王太子を無罪にするための茶番劇だった。
だからこそ、証言の前に神への宣誓は行われなかった。
今までは神に宣誓してから嘘の証言をしても天罰が下る事はなかったが、今回は天罰が下るかもしれないと恐れ、宣誓しなかったのだ。
それですむと、王家も侍従も王家派貴族も思っていたのだが……
「おい、聞いたかよ、王太子の話」
「おう、聞いたよ、証言の前に神に宣誓しなかったんだろう?」
「おうよ、こりゃ絶対に王太子が黒幕だぜ」
「いや、王太子だけじゃねえよ、国王もだ、全部国王がやらせたんだぜ」
「光の聖女様を殺させようとするなんて、なんて罰当たりな国王だ」
「今に見てな、必ず天罰が下るぜ」
どこから漏れたのかは分からないが、王都中で王太子が神に宣誓しなかった事が広まり、民達に王家への不信感が積み重なっていった。
光の聖女マリアンヌが精力的に民を治療し、信頼と恩を積み重ねているのに比べれば、悪手を重ねていると言って言う
聖女が時に学園を休み、休暇を利用して自主的に護衛を買って出た騎士達に護られ、辺境にまで治療の旅に出ているのとは、比べものにならなかった。
「今から護衛に行ってくるから、ちゃんと戸締りしておくんだぞ」
「あんたこそ無理しないでね」
「大丈夫だよ、あくまで念のためさ、王家もそこまで馬鹿じゃないだろう」
王都の民は自主的に光の聖女マリアンヌの住む教会を護っていた。
それほど戦闘力などなくても、民の目があると言うだけで、襲撃は行い難くなるというのが、自警団長の考えだった。
いつの間にか、光の聖女マリアンヌを護ろうとする者達が自警団を組織していた。
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