第4話:学園再開

 王家への天罰事件が起こってから一カ月、ようやく学園が再開された。

 王家王国にとって、貴族士族子弟の教育は疎かにできない重大事だ。

 今直ぐどうこうなくても、数十年後に王国を滅ぼす遠因になりかねない。

 だから貴族士族に命じて登校させたのだが……

 光の聖女マリアンヌの同級生だけは、誰一人登校する事はなかった。

 ほとんどの人間が精神を病んでしまい、後継者の座から滑り落ちた。

 残ったわずかな者も、一年間の休学届を出して聖女と一緒になる事を避けた。


「みんなも噂は聞いていると思うが、抜群の成績で二学年飛級となった光の聖女マリアンヌ嬢が、今日からこのクラスに転入することになる。

 センピル男爵家令嬢マリアンヌ、入ってきなさい」


 そう廊下で待つマリアンヌを呼び入れる担任は、最初から震えていた。

 紹介の言葉も怯えて震え、つっかえつっかえだった。

 本当は学園を辞めたかったが、没落貴族の担任には、学園から支払われる給料と、担当する貴族子弟の実家から渡される莫大な付届けがあり、それを失えなかった。

 それに、今やめると言えば、王家から睨まれるのも分かっていた。


「「「「「うっわ」」」」」


 クラスメイト全員が、光の聖女マリアンヌを恐れていた。

 一カ月前の事件は、すでに尾鰭がついて王国中に広まっている。

 神の王家に対する天罰、このクラスに王太子がいるため、表立っては誰も口にできないが、裏では公然と語られている。

 誰だった巻き添えにされるのは嫌だった。

 顔を伏せ眼を瞑り、これから何が起こってもみえないようにした。


「ヒッィイイ、私じゃない、私じゃない、私じゃない」


 そんな中で、ただ一人最初から独り言を繰り返す令嬢がいた。

 あの惨劇のきっかけになった、投擲をさせた黒幕、フリード侯爵家の令嬢アンだ。

 彼女はこの一カ月、マリアンヌの報復を恐れ続けていた。

 あれが王家への罰ではなく、自分が仕掛けた暗殺への報復である事を、アンだけが知っていた。

 実際に無残に殺されたのが、アンが暗殺を依頼した男だけだったことで、全ては明らかだったのだ。


「アッウウウウウウ」


「「「「「キャアアアア、いや、イヤ、嫌、いやあああああ!」」」」」


 アンは本心から学園に来たくなかった。

 いや、王都から逃げ出して、領地に引き籠りたかった。

 だが、王家の強制命令で、学園に登校しなければいけない。

 しかも、自分のクラスにマリアンヌが転入してくるという。

 無残に殺されると思い悩み、眠っても悪夢にうなされ、倒れて意識失うまで眠る事もできず、精神を病んでいった。


 マリアンヌが教室に入ってきて姿を見せた途端、精神が崩壊した。

 目を向いて口から泡を吹いて卒倒してしまった。

 そして自分のやった事を全て口にして、ひたすら許しを乞うていた。

 その言葉の中には、王太子との事も含まれていた。

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