第2話:取り調べ

 悲鳴に驚いた両隣の教室の教師が、ドアを開けて現場を見て、卒倒した。

 物見高い両隣の生徒が、興味半分で、自らのチャチな勇気を自慢しようと、教師が待っていろと言った指示を破り、覗き見て半狂乱となった。

 その騒ぎに興味を抱いた多くの生徒が、地獄絵図となった教室を覗いては、生涯残る精神的な傷を受けることになった。

 普段は臆病者と嘲笑われていた者だけが、心に傷を受けずにすんだ。


 あまりの惨劇に、学園が警備隊に連絡を送れたのは、事が起こってから三時間も経ってからだった。

 多くの事件を扱ってきた警備隊でも、これほど残虐な現場はあまりなかった。

 証言を聞きたくても、多くの生徒が精神的に傷を受け、半狂乱だった。

 それでも、相手が平民ならば、時に暴力を使ってでも取り調べただろう。

 だが相手が貴族士族では、暴力を使った取り調べは行えない。


「光の聖女マリアンヌ、何があったか正直に話してもらおうか!」


 最初警備隊は、唯一平静なマリアンヌを厳しく取り調べようとした。

 元々が平民にマリアンヌを舐めていて、貴族として扱う気がなかった。

 だが、マリアンヌは、淡々と、でも、強大な威圧のこもった返事をした。


「それは、王家が特別な計らいで男爵にした、光の聖女を、貴族令嬢として扱わず、男だけで取り調べて、名誉を傷つけるという事ですか?

 それが警備隊総長の責任で行われるのだと、そう理解すればいいのですね?」


 最初横柄な態度をとっていた警備隊員二人は、自分達が不敬罪の大罪に片足を突っ込んでいると気がつき、心底震えあがった。

 慌てて詫びたが、そんな形だけの謝罪を受け入れるマリアンヌではなかった。


「それでは、貴男方二人が、わたくしを私利私欲で嬲ろうとして、警備隊の名を騙ったという事ですか?

 ではセンピル男爵令嬢マリアンヌとして、今の言動を不敬罪で訴えます。

 何をしているのです、貴男達は!

 この者たちの無礼を見て見ぬフリして、後で賄賂でも受け取る心算だったの?

 さっさとこの二人を不敬罪で逮捕しなさい!」


 光の聖女マリアンヌの一喝を受けて、二人の警備隊員がマリアンヌを暴力づくで取り調べしようとしているのを、遠巻きに見ていた他の警備隊員が、弾かれたように動き出して二人を逮捕拘束した。


「私の証言が欲しければ、王家とセンピル男爵家の許可をとり、私の名誉が損なわれないように、公衆の面前で女性に質問させなさい。

 この二人がどういう処罰を受けるのか、お前達がどういう処罰を受けるかによって、私を信じてくださる騎士の方々に、決闘の代理人をお願いすることになります」


 この場にいる警備隊員全員が、死の瀬戸際に立たされていることを思い知った。

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