転生聖女は虐めに負けない。

克全

第1話:光の聖女

「みんなも噂は聞いていると思うが、神がこの国に光の聖女を授けてくださった。

 王家の特別の計らいで、その家は男爵を授かり、今日からこのクラスに転入することになったのだ。

 聖女マリアンヌ、入ってきなさい」


 マリアンヌは教室に入るなり投石器で石を投擲された。

 それも実戦で使うような殺傷を目的とした拳大の石だ。

 確実に殺そうとした、情け容赦のない攻撃だった。

 投擲したのは侯爵令嬢の意を受けた男爵家の次男だった。

 軍に入って手柄を立てなければ、貴族から平民に落とされる男は必死だった。

 聖女を殺して王家から咎められても、侯爵家が救済してくれる約束だった。


 ボグシャ!


 教室内に脳漿と血液が撒き散らされた!

 多くの生徒が何が起こったのか全く理解できていなかった。

 いきなり視界が真っ赤になる者や、開けていた口に異物が入って驚く者がいた。

 だがそれがナニなのか、最初は誰にも分らなかった。

 だが、投擲を放った男の隣にいた女生徒がようやく事態を理解した。


「キャアアアアアアアア、嫌アアアアアアアア!」


 まさに絶叫だった。

 あまりの恐怖にただ叫ぶことしかできなかったが、その声を聞いた教室の全生徒が振り返って、ようやく事態を認識した。

 自分の目に入ったモノ、口に入ったモノが、人間の脳漿だと。

 いきなり鼻が感じた生臭い悪臭が、血と体液と脳漿の臭いなのだと!


「「「「「ギャアアアアア!」」」」」


 教室中が阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。

 男女関係なく、半数以上の生徒がその場で卒倒した。

 口に脳漿が入った女生徒は、卒倒する事もできず、その場で嘔吐し続けている。

 眼に脳漿が入った男生徒は、絶叫を上げながら、目が潰れてしまうほど自分の目を服の袖で拭い続けていた。


 光の聖女を紹介した担任は、何もできずに棒立ちしていた。

 いや、立ったまま気絶しているのか、小便を垂れ流していた。

 ただの一人も、気丈に振舞える人間はいなかった。

 その場でただ泣き叫び続ける女生徒と、腰を抜かしても何とか這って逃げようとする男生徒が、まだわずかに度胸があると言えるのかもしれない。


 そんな中で、光の聖女マリアンヌだけが笑みを浮かべていた。

 彼女から見れば、当然の結果、当然の報復だった。

 もしマリアンヌが無力な存在だったら、同じように殺されていた。

 いや、男爵家次男ごとき力なら、頭蓋骨が陥没する程度で、脳漿が教室中の血び散る事はなかったが、殺されていたことは間違いない。

 むざむざと殺される馬鹿はいないから、受けた攻撃を十倍にして返しただけだ。


「どうした、何事だ!」

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