第44話 乾いた笑み

「ふぅ~今日も投稿完了っと」


 大きく伸びをして、パソコンを閉じる。

 すると、生まれたばかりの太陽の光が、小鳥のさえずりと一緒にカーテンの隙間から差し込んできた。


 カーテンを開けてみて、ようやく今日という日が訪れたことを知った。


「また徹夜しちまったか」


 また小説を書いて徹夜してしまった。

 もはや数えきれないほどに、この過ちを犯している。


「まっ、いいか」


 もう一度パソコンを開いて、小説投稿サイトのランキングを確認する。

 その総合一位、『この恋は君だけを知っている』。著者――幼馴染A。


 そう、これは紛れもない俺である。

 実は東京に行ってからというもの、お互いにやる気を出していい意味で影響しあい、俺は総合一位を獲得するまでに成長することができていた。


 茜は映画の仕事をこなしながらもテレビに引っ張りだこ。

 最近あまり会えていないものの、電話で励まし合って今日まで楽しく生きている。


「まぁ、まだまだ到底、あいつには及ばないけどな」


 確かにランキング一位を取ることができた。

 だが、まだ俺はプロになれていない。


 この短い間で、俺は死ぬ気で書きまくった。

 たぶん、一日一万文字をきった日はないと思う。加えて研究もした。だがそれはまだ実を結んでいない。


「もっと頑張るしかないよな」


 俺は努力することが自分の取り柄だと思っている。

 それで全国模試トップランカーにもなることができた。


 だからこそ、俺はこの先に望む未来があると信じて疑わない。

 俺は今日も、そして明日も。その未来を信じて進もう。


「よしっ、ちょっと寝るか」


 俺は電源を切ったように、ベッドに倒れ込んだ。


 何もかも、順調に……。




   ***




「おはー」


 短い昼寝ならぬ朝寝明け。

 学校に登校すると、珍しく俺の席の周りに見知った顔の奴がいないことに気が付いた。

 

 二人して寝坊かよ、と思っていたのだが、二人の姿は教室の中にあった。

 そのうちの一人、正弘は机に突っ伏しておやすみ中。


 ここは親友として見守る——


「何寝てんだよ。徹夜でゲームか?」


「ぐはっ! ちょお前なぁ、わき腹をつつくのはやめろって!」


 ――わけがない。

 俺と正弘は、常に起こし起こされる関係にあるのだ。


「で、なんで今日は机に突っ伏してんだ? 失恋か?」


「違うわ! ただ……ちょっと眠いだけだよ」


 そう言いながら、正弘はちらりとある方向を見た。

 

「あはは~氷見ちゃん天然だなぁ」


「ねっ、今日駅前にできたカフェ行こうよぉ!」


「女子高校生しちゃお!」


 クラスの派手めなグループ。

 そこに珍しく、氷見の姿があった。


「あれ? なんでお前ら一緒にいねーんだよ」


「……うっせ」


 そう言って正弘はまた机に突っ伏した。

 俺はそんな正弘と、どこか違う氷見の姿に、違和感を覚えた。


 だっていつもなら正弘は——そんな苦しそうな表情をしないから。


「お前ってさ」


「ん?」


 机に突っ伏しながら、正弘が続ける。


「……いや、なんでもねーわ」


 そう言って、その後正弘が口を開くことはなかった。


 

 その日。

 行間も昼休みも放課後も。


 いつもの三人組が揃うことは——なかった。




   ***




 頭が痛い。


 

 それは連日溜まった疲労と睡眠不足のせいか、それともいつもと違った生活に困惑したせいか。

 どっちかはわからないが、今すぐに眠ってしまいたい。


 俺はその一心で帰宅し、部屋に入った。


「(そういえば、この時間にストックを投稿する予定だったっけ)」


 すぐにベッドに飛び込みたい気持ちを堪えて、パソコンを立ち上げる。

 


 頭が痛い。



 意識が少し朦朧とする中、小説投稿サイトにログインする。

 すると見慣れない赤文字が表示されていた。


「……メール?」


 とりあえずクリックする。

 するとそこには、こう書かれていた。






 書籍化の打診が来ています。






「……ははっ」


 待ち望んだ、書籍化の打診。


 なのに俺は、乾いた笑みをこぼしていた……。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


少しの間、この物語の終点、そして新作について考えるので、次話投稿に間が空いてしまうかもしれません。ご了承ください。

そしてどうかこの物語を、これからもよろしくお願いします(__)

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