第36話 ポケットのぬくもり
姫岡姉妹と別れた後。
俺と茜はいつも通りの帰り道を歩いていた。
もう冬は深くなっていて、十一月ともなれば夜になるのも早い。
すでに暗闇に包まれた道。だけど俺たちの頭上は幾千もの星が輝いていた。
「うぅ~寒い」
「そうだな。まさか夜がこんなに冷え込むとは……」
そろそろマフラーや手袋を用意した方がいいかもしれない。
冷え切ってしまった手を擦りながらそう思う。
「ねっ、歩夢」
「ん?」
「手、繋ご?」
「いいぞ」
「やた!」
すぐに俺の手を握ってくる茜。
少し暖かくなったが、素肌が外に晒されているのでやはり寒い。
すると茜が、手を繋いだまま俺たちの手を俺のポケットに突っ込んできた。
「あったかぁい」
「……そうだな」
俺としても暖かかったので、言おうと思ったが何も言わないでおく。
ちょっとばかし距離が近いのも、冬だからということで不問だ。
「次はマフラーかなぁ」
「それはさすがに歩きづらくないか?」
「歩夢は、私とマフラー共有したくないんですか?」
茜がちょっと怒り気味にそう言う。
「そ、それは……したい、けど……」
「じゃあしよっ! うん、しよっ!」
「おいあんま暴れんなよ。俺のポケットが引きちぎれそうになる」
「無理な頼みだね☆」
「お前のポケット引きちぎるぞ」
「……歩夢のえっちぃ」
「俺なんか変なこと言った?」
茜テンポに乗せられて会話がどんどん進んでいく。
全く、いつまでも自由な奴だ。
「あっ、俺コンビニで買いたいものあるんだけど、いい?」
「どうぞどうぞ」
帰り道の途中にある、行きつけのコンビニに寄る。
店内に入ると、熱気が俺たちを温かく迎い入れてくれた。
「あったかぁ」
「さすがコンビニエンスストア」
二人してプチ感動しながら、欲しいものを手に取る。
これは相当冷えていて、正直持つのをためらったほどだった。
「エナジードリンク?」
「あぁ。今日から勉強以外にも、やりたいことができたからな」
そう言って茜に視線を向けると、茜は嬉しそうな表情を俺に向けていた。
「そっか。歩夢は、頑張り屋さんだねぇ」
「まだがんばってないっつーの」
「歩夢が頑張ることは、もうわかってるから」
えへへ、と恥ずかしそうに笑って、店内を歩き始める茜。
少し経ってから、後を追う。
「もうすぐクリスマスかぁ」
「早くね?」
「何言ってんの。二ヶ月前はもうクリスマスイブみたいなもんでしょ?」
「そ、そうなのか?」
「そうなのです」
多分違うと思うけど、もう茜ワールドが展開されているので何も言わないでおく。
店内をひとしきり見終えた後、茜は肉まんを一つ買って店を出た。
ビューっと冷え切った風が吹きつけてくる。
「さむぅ」
「ほんと寒いな」
また俺と手を繋いで、俺のポケットに手を突っ込んでくる。
でも器用なことに、片手で肉まんを食べ始めた。
「んまぁ~。やっぱり寒い冬には温かいものだよね」
「だな」
そのまま歩いていく。
よくよく見れば、視界に入る景色のほとんどが冬になっていた。
気づけば秋が終わり、冬が始まる。
その移り変わりを俺たちが明確に感じることはないけれど、確かに季節は移り替わっていた。
「はぁ~」
白い息を吐く。
その息は天に昇っていって、星煌めく夜空に消えていった。
「歩夢、肉まん食べる?」
半分くらい食べた肉まんを俺の目の前に差し出す。
……ごくり。
「食べる」
「ん!」
一口肉まんを頬張る。
……美味い。冬に肉まんが売れる理由がよくわかる。
「シェアハピ、だね」
茜が突然そう言う。
なんていい言葉なんだろうと思いながら、俺は頷いた。
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