第35話 男に女子は分からない

「……」


「……」


「……」


 現在ファミレスにて。

 美少女三人と一緒という最高に羨ましがられそうなイベントを迎えているのだが、俺の内心はぐっちゃぐちゃだった。


 隣に座る茜は不機嫌そうに外の景色を眺め、時折俺をちらりと見てはすぐそらす。

 対面に座る姫岡はソワソワした様子で、時折茜に視線を向けている。

 そんな姫岡の隣に座る姫岡の妹、葉月は緑茶を自由気ままにすすっている。


 俺はそんな三人を見ながら、ひたすらこの場をおさめる方法を探していた。


「(……き、気まずいッ!)」


 この沈黙に耐え切れなくなった俺は、ライトな感じを意識しつつ口を開いた。


「姫岡に紹介するよ。こちら俺の幼馴染の明理川茜」


「あと、歩夢の彼女でフィアンセですぅ~」


「ばっかお前っ……」


「ふぃ、フィアンセ……」


 姫岡がじっと茜を見つめる。

 不機嫌そうな茜は、決して目を合わしたりしないけど。


「あの~こないだの騒動って……」


「あぁ。あれは実は……俺たちのことなんだ」


 ほんとはこの件に関してあまり触れたくなかった。 

 だって、姫岡は……。


「そうなんですね……じゃあ、あの時言っていたお相手も……」


「あぁ、そうだ」


 自意識過剰かもしれないが、俺は姫岡が少なからず俺に対して好意をまだ抱いてくれていると思っている。

 それは俺の経験則から基づく憶測で、姫岡という女子はそういう女子なのだと知っている。


 だからこそ、俺は姫岡の前で俺の彼女、茜の話をするのはどうかと思った。

 もし俺が姫岡の立場なら――苦しいから。


 だが、そんな俺の予想に反して姫岡が茜に視線を向けた。

 今度は茜もちゃんと目を合わせる。


「あの……明理川茜さんって、あの大人気モデルの明理川茜さんですよね?」


「うん、そうだけど」


「あの~……その~……」


 この後に続く言葉が、全くわからなかった。

 ただ俺は最悪の状況、修羅場が訪れることを予想して、拳に力を入れる。


 すると姫岡が心底恥ずかしそうに、それでいてはっきりとこう言った。



「握手してくれませんか‼」



「「……へっ?」」


 茜と俺の声が重なる。

 あとたぶん、同じ顔をしていたと思う。


「私実は明理川茜さんのファンで、いつも雑誌読んで『こんな風にキラキラ輝ける女の子になりたいな』って思ってたんです! つまり、私にとって憧れなんです!」


 息継ぎなしで言い放つ姫岡。

 その圧に押されて何も言えない茜だったが、次第に分かってきたのか顔がにやけていく。


「嬉しい! 姫岡ちゃんみたいな可愛い子に憧れなんて言われて……ほんと嬉しい! ねぇ、せれなって呼んでもいい?」


「は、はい! ぜひぜひ! わ、私も……茜さんって呼んでもいいですか?」


「もちのろんよ! これからも仲良くしよ!」


「はい! ぜひぜひ!」


 とてつもない勢いで女子トークが繰り広げられる中。

 俺はそんな二人を見て安心すると同時に、俺の心配とか諸々が杞憂であったことにガクリと肩を落とす。


 どうやら無駄に心配して損したらしい。


 それにしても……。


「美容院とかはどこに行ってるの? 髪型とか変えてみない?」


「近くの美容院に……髪型は、変えたことないですね」


「えっじゃあ変えてみようよ! 新しいせれなが見たい……ぐへへ」


 さっきまであんなに気まずい修羅場ムードが漂っていたのに今ではこんなに騒がしい。

 女子ってすげぇなと思いつつ、でもやはりこの二人が仲良くなってくれて嬉しいという感情が俺の心を占めていた。


「……ふっ」


 盛り上がる二人を横目に、メロンソーダを一口。


「ん?」


 なんか緑茶の味がする……。


 対面に座って緑茶をすする葉月に視線を向ける。

 すると無表情で、


「へっ」


 と言われた。

 

 お前、ほんと自由だな……。

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