第34話 寝不足と妹と修羅場
「それで、騒動がひと段落したっていうのに、なんでお前そんな寝不足そうなの?」
「えっ分かる?」
「歩夢の顔死んでるよ……」
氷見に鏡を向けられて、今日初めて自分の顔を見た。
いつも目の下にクマがあるのだが、今日はそれが一段と黒く、全体的に顔が疲れていた。
確かにこれは一目で寝不足と分かる、寝不足な人の典型的な顔だ。
「まぁ実は昨日色々あってな」
振り返れば、本当にいろんなことがあった。
茜の熱愛報道もそうだし、あんなに蕩けるキスだってした。それに……俺は茜の裸を……。
「うがぁぁぁぁ‼」
「おぉこいつ遂に奇声上げ始めたぞ」
「このパターンの歩夢は初めてだな。動画撮っとけ。いつかこれを交渉材料に……」
「そうだね。録画開始」
カメラを向けてくる氷見。
「何お前ら冷静に対応してんだよ。その冷静さにはさすがの俺もびっくりだぞ」
「いついかなる時も冷静さは重要だからな。たとえラッキースケベに出くわしても、な?」
「お、お前なんでそれを……」
「何となく……親友の勘?」
「すごすぎんだろ……」
どうやら正弘に隠し事はできないらしい。
ちなみに、ラッキースケベという単語を聞いて氷見は完全にショート。
顔を真っ赤にして、頭から湯気を出している。
氷見は真面目である。
保健体育の授業をちゃんと受けていて、生命誕生の方法については心得ているのだが、それ以外の予備知識はからっきし。
よって耐性もない。
「あぁ氷見がショートしちまった」
「正弘がぼかしもせずに言うからだろ?」
「すまんすまんつい男子のノリで」
「ったく……」
五分後。
ようやく氷見が通常通りになった。
「ともかく、ちゃんと寝ろよ? 寝不足のお前を見てるとこっちまで眠くなってくる」
「そうだね。ふはぁー」
「それはお前らが単に寝不足だからじゃないのか?」
よくよく見れば、確かに二人とも少し眠そうである。
でも二人して……。
「実は昨日氷見と夜遅くまで電話してて……な?」
「あ、うん……そうだね」
……ははーん。
俺はまさに「ははーん」と言いたげな表情を浮かべて氷見を見た。
机の下で指いじりをしているあたり、こんなに分かりやすい奴はいない。
「な、何?」
「いやぁなんでも~?」
「っ……歩夢このやろう……」
拳に力を入れられてにらまれたのだが、別に殴られても目が覚めそうだななんて思いながらそっぽを向く。
「ん? お前らどした?」
それに反してきょとんとした表情を浮かべる正弘。
「いやぁ何も?」
そう言いつつ、氷見の顔をちらりと見る。
「な、何も……」
氷見も恋する乙女。
どうやら俺の知らないところで、少しずつ頑張っているらしい。
***
茜との待ち合わせ場所である公園前に着く。
まだ茜の姿はなくて、公園には砂場で遊ぶ少女の姿しかなかった。
「(それにしても前方後円墳とは……渋いな)」
背丈からして多分小学校四年生くらいだろうか。
そんな女の子が作るものとは思えない。実際、作っているのだけど。
「(どこかで見たことがあるような……)」
白い日本人離れした髪のショートボブに、人形かと思うほどに整った顔立ち。
どこか気だるそうな……アンニュイな表情を浮かべている少女。
「(どこかで見かけたというよりは……誰かに似てる?)」
そんなことを思った瞬間、前から歩いてくる人の姿が見えた。
それはよく見知っている顔で……でも、茜ではなかった。
「八朔君?」
「姫岡……か」
今日も相変わらず手に乗りそうなくらいに小さな美少女、姫岡せれな。
それにしても、姫岡は確か帰り道はこっち方面ではなかった気がする。
「お姉ちゃんおかえり」
いつの間にか俺の隣の少女が立っていて、無表情でそう言った。
その発言をそのままの意味で受け取れば、そういう意味なのだろう。
「あっこちら、私の妹の葉月です」
「こ、こんにちは」
「こんにちは、兄さん」
相変わらず表情が変わらない。
その部分に関しては表情がコロコロと変わる姫岡と似てはいないが、どこか面影を感じる。
なるほど。確かに姉妹のようだ。
「八朔君は、なんでここにいるんですか?」
「あぁ。それは……」
そういえば、と思い出す。
俺は今は、茜とこの公園で待ち合わせをしていたのだ。
姫岡に妹がいたことが驚きで、思わず忘れてしまっていた。
嫌な予感がして、周りを見る。
すると嫌な予感が的中していて、すぐ近くに驚いたような表情を浮かべる茜の姿があった。
「あ、歩夢の浮気者!」
絶対そう言うと思った……。
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そろそろ平穏になるかなと思っていたそこのあなた!
ふっふっふっ……このラブコメに平穏はないのだ!
幼馴染に一万回、の連載を再開させました。
ぜひそちらもご覧くださいまし!
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