第30話 恋する乙女たち

 家に帰ってきて、俺は制服のままソファーに腰を掛けた。

 そのままテレビの電源を入れ、ワイドショーのチャンネルにする。


 すると予想通りの話題が、テレビの中で扱われていた。


『今若者に大人気! 明理川茜さんの熱愛発覚! ということで、今ものすごく話題ですけど……』


『そうですねぇ。今日なんてその話で持ち切りでしたからね』


『それほどに、明理川茜さんは人気なんでしょうね』


『では、世間の意見について見ていきたいと思います』


 司会進行役の人が、パネルを出した。

 そこにはこの報道を受けて、世間の方々がどう思っているのかが書いてあった。


 だが、俺はそれがどんなものなのか知っている。

 なぜかといえば……




「これ見ろよ」


「……ま、マジかよ……」


 正弘のスマホの画面に表示された、たくさんの文字。

 そこには、今回の茜に関する世間の方々もといファンの意見が書かれていた。

 

 俺は気づけば、それをゆっくりと読み上げていた。



「めちゃくちゃ嬉しい……女の子してる……青春だなぁ……羨ましい」



 そう。今回の茜の熱愛報道に関して、批判意見など微塵もなかったのだ。

 すべてが茜を祝福する声などの好意的な意見。


 俺が危惧していたことはすべて杞憂だったのだ。

 

「歩夢。お前はさ、祝福されてるんだぜ?」


 正弘がドヤ顔でそう言う。

 氷見もそれに「うんうん」と頷いて、俺に温かい眼差しを向けてくれていた。




『どうやら世間の方々は、この報道に好意的な意見を持っているそうです。いやぁー非常に珍しい』


『ですね。普通なら嫉妬心で批判意見を言ってしまうものなんですが……すごいですね、明理川茜さん』


『あの若さで大人気モデルになる理由がよく分かります』


 たまに辛口意見を飛ばしてワイドショーを加速させるコメンテーターも、このコメント。

 すべてが嘘だと思うほど、俺たちは認められたのだ。


『プライベートでも明理川茜さんと交友のある琴寄さんはどう思いますか?』


『そう……ですね』


 ここでカメラは琴寄に切り替わった。

 琴寄はあくまでもほのかな笑顔を顔に灯すことを忘れず、落ち着いた様子で話し始めた。


『茜は仕事にも、プライベートにも全力です。それでいて裏表があまりなくて、あんな純粋な人間を見たことがないです。そんなところが世間の方々に愛されて、今回の報道でも批判意見はなかったんだと思います。それに ――』


 琴寄は一度切って、今度は目の前の誰かに言うように言うのだった。



『恋する乙女は、輝きますから。茜は恋をしているから、あんなに可愛くて、世間の人に愛されてるんですよ。きっと』



 その言葉に、スタジオ全体が静けさに包まれた。

 それは的外れな意見で白けたのではなく、むしろその逆。

 むしろこの静けさが心地いいと感じた。


 思い出したように司会進行役の人が言葉を琴寄に投げかける。


『ということは、琴寄さんも恋を?』


『えぇもちろん。私だって、皆さんだって。きっと何かに恋をしていますから。ちなみに私は、演技にですけどね。……わ、私も熱愛報道とか、やめてくださいよ⁈』


『えぇーでは次回は、琴寄つばめさん、熱愛発覚! ということで……』


『いやいやちょっとやめてくださいよ! っていうか、報道することなんてないですから!』


 先ほどとは打って変わって、笑いに包まれるスタジオ。

 琴寄……すげぇ。


 そう思うと同時に、今の現状にほっとする。

 この様子だと、茜の仕事に影響は何もなさそうだ。


「多分、琴寄の仕事は増えるだろうな」


 そんなことを呟いていたら、ガチャリと音を立てて家の扉が開かれた。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


30話到達!

この物語は何話まで続くか分かりませんが、温かい目でこれからも見守っていただけたら幸いです(o^―^o)ニコ

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