第29話 膨らむ話題と大丈夫
「もしもし」
『もしもし? 歩夢?』
昼休み。
間もなく授業が始まるというところで、ようやく茜と電話が繋がった。
もうこの際授業はしょうがない。
初めて授業をサボることに決めた俺は、そのまま茜と電話をする。
「あぁ俺だ。その……大丈夫か?」
『私? 私は全然大丈夫だけど……』
「いや嘘つけ。こんだけ騒ぎになってるなら大丈夫なわけないだろ?」
『……あっ、で、でも大丈夫! 注目が集まってるだけで、別に私の事務所は恋愛禁止にしてるわけじゃないし、ダメなことじゃないんだよ。私と歩夢が付き合うのは』
これだけ騒ぎになっているのに、やけに落ち着いている茜。
俺は茜ならもっと取り乱して『やばいよ歩夢助けてぇ~』くらいは言うと思っていたのだが……どうやら誤算だったようだ。
ひとまず、茜が大丈夫なことにほっとする。
もしかしたら、そんなに危惧しなくてもいいのかもしれない。
「そうか。まぁひとまず、お前が大丈夫そうでよかったよ。こっちは結構な騒ぎになってるからな」
『そっか……それは結構大変だね』
「お前随分他人事みたいに言うな?」
『いや、そんなことはないよ? 私だって実は質問攻めにあって大変』
なぜだろう。
茜が質問攻めにあっている姿を想像したら、微笑ましいと思ってしまった。
「まぁそっちも頑張れよ」
『うん! そっちに帰ったら、たくさん甘えさせてもらうね? 私疲れちゃった』
「おう、任せろ」
『やったーこれでようやく、歩夢と一夜を共に……』
「お前何言ってんだよ」
もし俺の隣に茜がいたなら、絶対に手刀を頭にお見舞いしていただろう。
実に陽気なことだ。
「じゃ、俺は授業に行くわ」
『うん! 頑張って、ダーリン♡』
茜はそう言って電話を切った。
――おかしい。
どこか違和感を覚えたが、その正体はわからず、考えるのをやめて小走りで教室に向かった。
***
「明理川茜の彼氏ってどんな奴なんだろうな」
「この近くに住んでるって噂だぜ? ほんと見て見てぇな」
「だなぁ」
俺と氷見と正弘は雑談をするためにファミレスに来ていた。
だがどうやら、ここでも茜の話がされているらしい。
それと、
「明理川茜の彼氏を探そうとする動きが出てきてんな。一般人なのか、はたまた芸能人なのか。いろんな憶測が飛び交ってるけどな」
「マジか……世間は暇なのか?」
「みんな暇なんだよ」
かくいう俺たちも、こうしてファミレスを訪れているのだからその世間の一部なんだが。
それにしても、今日だけで茜の話題はだいぶ膨らんだ。
もしかしたら俺が特定されるのも、時間の問題なのかもしれない。
「まっ、俺が特定されるのは別にいいんだよ。そんなことより、俺は茜に対するファンの意見が気になる」
「どういうことだ?」
「たまにさ、女優とかアイドルとかの熱愛報道が出ると勝手に幻滅したり失望したりする輩がいるだろ? 俺はそれで茜の人気が落ちちゃうのが心配なんだよ」
「なるほど……なぁ」
正弘はそう答えながら、スマホを操作し始めた。
何となくスマホに敗北した感は否めないが、致し方ない。
俺は色々と不安な気持ちを全部メロンソーダと一緒に胃に流し込んだ。
このまま消化されればいいのに。
「でもきっと、大丈夫だよ。歩夢」
氷見が突然そう言う。
「なんでだよ」
「だってさ、茜さ――」
氷見が何か言おうとしたところで、正弘が氷見の口を押えて止めた。
そしてその代わりに、俺の前にスマホを突き出してくる。
「これ、見ろよ」
正弘に言われるがままに、スマホの画面を見る。
「……ま、マジかよ……」
俺は驚きのあまり、気づけばそんな言葉をこぼしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます