第18話 中間テストの結果

 ――中間テスト。

 

 つい先日に五日間に渡る長き戦いを終え。

 俺の通う高校では、テストが終わった次の日から二日かけてテストを返却するのだ。

 そして今日、その最終日を迎えていた。


「うぉぉぉぉ赤点ぎりぎり回避したったわ~!」


「うわっ、31点……お前、勉強してた?」


「……ふっ、勉強よりもすることがあるってもんだろ?」


「……正弘はどうせゲームか昼寝だろうね」


 氷見が呆れたようにそう言う。

 正直俺もそう思ったのだが、正弘は何やら余裕の表情を浮かべている。


「……ふっ、それは――」

 

 なかなかにためる正弘。

 この演技力は演劇部で発揮した方がいいんじゃないかと思いつつ、どうせいつも通りしょうもないんだろうなと二人で思った。


 案の定、


「間違いじゃない!」


 いつものワンパターン芸が飛んできた。

 それをいつも通りスルーした俺と氷見は、何かに浸っている正弘を置いて教室を出た。


「ちょおい! どこ行くんだよ! ってか、俺の至高のギャグを無視するんじゃねぇよ!」


 慌てて俺と氷見に並んだ正弘がそう言う。

 自分で至高と言ってしまうあたり、正弘節が出ていた。


 俺と氷見は顔を見合わせて、息を合わせて言ってやった。



「「そのギャグ、31点。赤点」」



「えぇ~それはねぇだろ! おい二人ともぉ!」


 後ろで地面にがくりと肩を落とす正弘にちらりと視線をやって、そのまま前を行く。

 この時間が、実は最高に楽しかったりする。


「氷見さんや氷見さんや。あれがあなたの好きな人で間違いなし?」


「誠に遺憾ながら、間違いなしですねぇ」


「あなたも大変ですねぇ」


「大変ですよ、えぇ」


 最近の氷見はより一層毎日が楽しそうだ。

 かくいう俺も幸せの絶頂で、学校ではこの三人で馬鹿やって、家では茜とイチャイチャする。


 そんな毎日が、楽しすぎた。

 こんなに幸せでいいのかと思うほどだ。少し怖いほどかもしれない。


 どうかこんな毎日が続きますようにと、そんな願いを込めながら足を踏み出していく……。




   ***




「今回も八朔が一位か。ってか500点満点中496点って……怪物だろ」


「さすが全国模試ランカー。神童だな」


 下駄箱前の掲示板に今回のテストの五科目の順位が貼られていた。 

 来る前にそんな会話が聞こえたので、どうやら今回も一位を死守できたようだ。


 嬉しさよりも、先に安心感を感じた。


「この学校県内一位の偏差値なんだけどなぁ……こいつがおかしいだけ?」


「おかしいだけだよ。だけど、正弘はもう少し頑張ろうね?」


「お、おうよ……」


 掲示板に着いて、順位を確認する。

 一位のところには確かに俺の名前があった。


 その横、二位には――


「あっ、八朔さん。お久しぶりです」


「あっ、姫岡。久しぶり」

 

 人形のようにきれいで小さな美少女が俺の前に立った。

 やはり近くにくればくるほど、姫岡の身長が小さいことが分かる。 

 だが、それも姫岡のチャームポイントであるのだが。


「今回も一位、おめでとうございます! さすがです!」


「いやいやそんなことないよ。それより――二位おめでとう、姫岡」


 そう、今回はいつも二位につけている人物が三位に落ち、二位に姫岡が急上昇していたのだ。

 さすがに驚いた。ただ、前々から姫岡の成績は良かったので不思議なことではないが。


「くそう……負けたぁ」


「ドンマイドンマイ。いや、ネバーマインド」


「っ……」


 そして悔しがっている人物、氷見こそが三位に落ちてしまった人物である。 

 まさかトップスリーが身内で埋まるとは……なんだか嬉しい。


「ありがとうございます。でも、まさか八朔さんに20点差をつけられるとは思ってなかったです。ほんと悔しいです」


「今回はまぁ、気合が入っててね」


「気合?」


「まぁ……身近にすごい人がいるからさ」


 そのすごい人とはもちろん茜のことだ。

 テレビにバンバン出て表紙を飾ってるあいつに比べたら、俺なんてまだまだだ。

 その思いで今回はいつも以上に勉強に身が入ったのだ。


「そうなんですね。まぁ私も、身近に憧れの人がいたので……」


 ちらりと俺の方を見てくる姫岡。

 俺と目が合うと、姫岡は逃げるように目をそらした。


 ……もしかして、俺なのか?


 だが万が一違かった場合はたぶん死にたくなるので、聞かないでおくことにした。


「じ、次回は絶対もっと追いつけるように頑張りましゅ!」


 ……今思いっきり噛んだ。


 だが本人は本当に恥ずかしそうにしているので、ここはあえて何も言わないでおいた。

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