第19話 大人気女優出現のフラグ
「明日公開の映画、『天気の子の親戚のおじさんの隣の家に住む男の子供はわんぱくだ』のヒロイン役を務めた現役高校生、琴寄(ことより)つばめさんがスタジオにお越しくださいました。では、どうぞ!」
「ほへぇ~」
いつもの八朔家名物、シラス丼パンを頬張りながらテレビを見る。
世の中にはこうして活躍する高校生がいるもんだなぁと思いながら、そのうちの一人である大人気モデル、茜に視線を向けた。
「ん? どした?」
「いや……何でもない」
今日も相変わらず、俺の幼馴染は可愛い。
毎朝見れるので、睡眠時間が短くなろうが一日の始まりは最高だ。
「最近、こうやって大舞台で活躍する高校生が増えたなって思っただけだよ」
そう言いながら、テレビを指さした。
そこには大人に混ざって月曜の憂鬱な朝に笑顔を灯す、金髪美少女の姿があった。
「……歩夢は、この子知ってる?」
「最近よく広告で見るくらい……かな」
「ふ~ん」
「なんか元気いっぱいでいいよな。あの笑顔とか、全く作り物感感じないし。マジで天然っぽい」
「そうだねぇ~」
何気ない様子で、茜はシラス丼パンにかじりついた。
特におかしな様子はないが、どこか引っかかる。
だがその理由は考えてもわからず、結局シラス丼パンと一緒に飲み込んでしまった。
***
「お前ら今度一緒に見に行かね? 明日公開の、『天気の子の親戚のおじさんの隣の家に住む男の子供はわんぱくだ』」
「よく覚えてんな」
「まぁな。何せヒロイン役が、あのつばめちゃんだからな」
「そんなに有名なのか?」
「まぁな。明理川茜と同時期に出てきて、今では若手女優ナンバーワンって言われてるくらいだし」
「すげぇな」
俺はそういう情報はよくわからないが、正弘は美少女に対して興味アリアリなのでよく知っている。
果たしてそれに対して氷見はどう思っているか、だが……。
「ほんとつばめちゃん可愛いよね。演技とかすっごい上手だし、同性でも可愛いなって思っちゃう」
「……だな」
茜のようにあからさまに妬いたりはしないようだ。
だけど、正弘に見えないように拳を握っているあたり、やはりこいつも恋する乙女なんだなと思う。
「とにかく、見に行こうぜ」
「いいぞ」
「いいよ」
俺たちは基本的に暇なのでこういう用事は断らない。
フットワークの軽さが、このグループの良さだ。
「映画館でつばめちゃんの写真集かおっと~」
ノリノリの正弘。
どうやら本当にファンらしい。
「琴寄つばめ……かぁ」
「どうした急に」
「いや、今日なんかよく耳にするなって」
「まぁ映画明日公開だからな。そりゃ宣伝してんだろ」
「……そうだけど」
どこか見知らぬ彼女の名前が、頭に残った。
それは多分、今朝の茜の様子が気がかりになっているからで。
それが琴寄つばめと何か関連性を持っているとは言えないけど、でも感覚的な部分が何かあると訴えかけていた。
「あっ、まさかお前……明理川茜じゃ飽き足らずに琴寄つばめまで……」
「いや違うから。ってか、会ったことすらない」
「まっ、そりゃそうか。明理川茜と恋人ってだけで奇跡なのに、お前のラブコメに大人気女優まで介入してくるとか、そんなことあるはずねぇもんな」
「んなことあるわけねーだろ」
……いや、今のはあからさまにフラグじゃないか?
「……いやいや、ないない」
そんなことあるはずないのだ。
俺がラブコメの主人公でもない限り、そんなラブコメイベントが起こるはずがない。
自分の中でその結論に至って、この懸念を忘れることにした。
***
すっかりと琴寄つばめのことを忘れていた放課後。
家に帰って、ふと目に入った見知らぬ靴を見て、俺は琴寄つばめのことを思い出した。
「いやいや、まさかな……」
母さんは買い物でいないらしく、茜はどうやら部屋にいる模様。
自分の部屋に行くついでに茜にただいまでも言うかと思って、二階に上がる。
「あはは~確かにこれ可愛い!」
「でしょでしょ! 絶対冬はこのコーディネートでしょ!」
……んんん?
見知らぬ靴があって誰かが来ているのかなとは思っていたが、どうやら茜の連れだったらしい。
友達を今度紹介すると言っていたし、たぶんそのことだろうなと思いながら、茜の部屋の扉をノックした。
「はいはーい」
「入るぞー」
「うん。ウェルカ~ム」
弾んだ茜の返事を聞いて、扉をゆっくりと開けた。
するとそこにはもちろん茜と、それと――
「初めまして。茜の彼氏さん……ですよね?」
ハートのクッションを抱きながらちょこんと座る、金髪美少女の姿があった。
「私、琴寄つばめと言います。茜の同級生で友達です☆ よろしく!」
本当に見事に、フラグを回収したのであった。
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