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恵美side
円華が、壊れていく。
あの漆黒の騎士と戦っている間、私はただ自分の無力感に押し潰されそうになる。
私のレールガンは通用しない、私の能力は円華のように戦闘向きじゃない。
ただ見ていることしかできないことに悔しさを覚えていると、陽菜乃さんが私の左肩に手を置く。
「私は重傷の加島を地下に運んで治療する。恵美はここに居て、彼を見ていてくれ。そして、彼と敵の声を聞くんだ」
「でも、そんなことをしたって……」
「恵美にしかできないことがある。高太くんが言っていたが、君には彼を抑制する力がある。それを知るために聞くんだ……良いな?」
「えっ……」
私の能力は人とか物の心の声を聞いたり、触れることでその過去を知ることだけ。
それが、他の人の力を抑えるのにどう関係してくると言うの?
「陽菜乃さん、それってどういうーー」
私が詳細を聞こうとした瞬間。
視界の中に、1つのジェット機がこの罪島に近づいて来ているのが見えた。
そして、そのジェット機は罪島の上を通り過ぎ、組織の飛行船を
稲美さんも私と同じでその男が落ちてくるのを見て目を見開き、安堵の息をつく。
「遅いぞ……健人さん」
そう、ジェット機から落ちてきたのは谷本健人さんだった。
でも、どうして……。
今はお父さんと一緒に本島に行っているはず。
森の中に落ちていった健人さんは、何の
陽菜乃さんは健人さんを前にすると、自分を責めるような顔で頭を軽く下げる。
「健人さん、すまない。私がついていながらこんなことに……」
「川崎のせいではない。敵が俺たちの予測を越えた動きをしただけ。予測できなかったことを責めても仕方がないだろ」
健人さんは海沿いで漆黒の騎士と戦っている異形な姿をした円華を見て目を鋭くさせた。
「恐れていたことが起きてしまったか」
恐れていた?
健人さんは、円華がこうなることを知っていたの?
「恐れていたって、どういうこと?」
私がすかさずに問うと健人さんは、漆黒の騎士を
「あいつは今、破壊衝動に飲まれようとしている。自我は保っているようだが、それも本能と同化しようとしている状態だ。あのままだと……あいつの自我は消え、破壊の化身となるだろう」
「円華が消えるって……そんな!!」
この前の円華とジャックの戦いの記憶が呼び起こされる。
漆黒の人狼の姿をし、暴れ回っていた円華は普通じゃなかった。
「無論、そうなる前に止めるつもりだが、今の円華は俺が……いや、俺と最上が戦ってきたどんな敵よりも脅威だ。倒す以前に気絶させることも困難だろう」
「じゃあ、どうやって円華を止めるの!?あんな戦い方を続けていたら……円華が死んじゃうよ‼」
今にも漆黒の騎士を殺しそうな円華を見て言えば、健人さんは私を指さす。
「円華を救えるかどうかは恵美、おまえにかかっている。今のあいつを本能から解放できるのは、この地球上で最上とおまえしか居ない」
陽菜乃さんも健人さんに同意するように真剣な目で頷く。
もしかして、私の能力には、まだ私自身が気づいていない何かがあるの?
首に下げているヘッドフォンを触ると、健人さんは私の頭の上に手を置いた。
「おまえができることは人の記憶と心を感じとることだけじゃない。俺があいつの前に出て隙を作る。その間に、おまえはーー」
健人さんが言ったことは1度もやったことがないし、1発勝負。
でも、それが円華を助けるためならやるしかない。
私は方法を理解し、納得して頷いた。
そして健人さんは、自身の異能具を手に円華の元に走って行った。
ーーーーー
健人side
こうならないように、あいつ自身を鍛えるつもりだった。
強くするつもりだった。
今思い返せば、俺があいつを弟子にしたのは、
俺たちの独善的な都合で、あいつの人生を崩壊させてしまった。
その罪を、償うつもりだったのかもしれない。
円華と対峙していた漆黒の騎士は砂に身体を沈めて動かなくなった。
死んではいないはずだ。
涼華が残した、心の
椿円華は、俺に憎悪を込めて漆黒の
これが獣の本能に飲まれた破壊衝動故なのか、それとも円華自身の怒りなのかはわからない。
しかし、その憎しみも怒りも受け入れる覚悟がある。
俺は自身の専用武器『高熱線ブレード 不知火』を両手で持ち、弟子と対峙する。
円華は刃と同化していない左手で頭を抱えれば、氷に覆われていない左目から血の涙が流れたが、それも頬に線を書くように氷っていく。
『「
円華は瞳を紅に輝かせながら、氷柱を飛ばしてきたが、それを全て不知火で叩き落とす。
そして、俺は不知火を
「
円華が大きく氷刃を振るうと、その瞬間に
そして、流れるような動作で俺は不知火を抜刀すると同時に円華の腹部の厚い氷を、火花を散らす程の熱を帯びた刃で砕いた。
「鍛え直しだ、アホ弟子が」
今刃を交えているのは、たった1人の弟子なのか、それとも親友だった男の成れの果てなのかはわからない。
しかし、刃を交えながら伝わってくるのは、ただ戦うことだけを望む男の本能のままに暴れている円華の悲しみ。
それは、先程から目から流れている血の涙からわかる。
円華の心は泣いているんだ。
氷の刃を熱を帯びている刃で止めながら、俺は目の前にいる弟子の心に訴えかける。
「円華‼おまえの望みは何だ!?敵を殺すことか?おまえの大切なものを壊すことなのか!?」
『「んぅ……ぐぅうる……‼」』
「おまえは言ったはずだ。おまえの復讐は、仲間を守るための復讐だと。このままだと、おまえは、そいつを傷つけることになるんだぞ!?」
刃と刃をつばぜり合わせていると、円華の力が一瞬弱まり、そのまま押しきる。
生成されているのは氷だと言うのに、その強度は鉄と同等。
それは恐らく、氷の温度がマイナスを大きく下回っていることも関係しているだろう。
このままだと、円華自身の身体がもたない。
決めるとすれば、一気に斬りこむしかないか。
不知火の刃を鞘に戻し、円華を見据えたまま柄を強く握る。
『「うぉおおおお‼」』
奴は獣のように突進して刃を振るい、すれ違いざまに抜刀する。
「……
『「ぐるぶぁああああああああああ‼‼」』
刃をゆっくりと鞘に収めれば、人狼の氷が全身から砕けていく。
円華は1度地面に膝をつくが、すぐに体制を立て直した。
「本当に、厄介な……」
漆黒の氷をいくら砕いたとしても、時間が経てば修復される。
このまま氷を砕いても終わりが見えないな。だが、俺に注意を向かせているだけでも上出来か。
円華は段々と
氷の刃が連なった牙のように形状変化し、
『「グルルル………グァアアア!!!」』
人間として崩壊するのも、時間の問題になっている。
円華が荒れ狂いながら一歩踏み込んだだけで、俺の前まで迫って刃を振るえば、それを不知火の刃で防ぐ。
しかし、その変則的な動きに追いつくので必死であり、紙一重で回避するが左腕に氷柱がかすり、着ていた黒コートの袖が氷る。
このまま続けていたら、俺の身体が持たないな。
恵美に
何でも良い、この円華の動きを止めることができるのなら。決定的な隙を作れるのなら!!
『「よこせぇ……
渇く……足りない……よこせ……。
円華の今の衝動は、破壊によるものではなかったんじゃないのか?
俺は勝手に、否定しながらも、円華の思考があの男に片寄り始めていると先入観を抱いて……。
円華の叫びを聞いた時、そして自分の中の前提を消した時、3年前の涼華とした最後の会話を思い出した。
『師匠……円華が壊れてきたと思ったら、あいつが自分を保てなくなったなら、その時はあいつにーー』
そうか、涼華……おまえはこうなることを予期していたのか。
流石だよ、おまえは。
不知火で刃と氷柱を片手で防ぎ、左手で懐からナイフを取り出して自身の首筋を浅く切りつけた。
鼻孔が、慣れた鉄の臭いを認識する。
そして、円華は俺の首から流れている血を見た瞬間。
条件反射のように首筋に噛みつき、そのまま流れ出る血を吸い始めた。
『あいつに、血を与えてくれ。そうすれば、円華は少しだけ大人しくなるから』
涼華、おまえも俺と同じ事をしたんだな。
やっとわかった、円華の副作用が。
相手の血を求める、吸血衝動だったんだ。
「俺の役割はここまでだ。だから、あとは頼んだぞ……恵美」
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恵美side
円華が、健人さんの首に噛みついた。まるで吸血鬼のように。
そして、噛みつかれている健人さんは私を強い眼差しで見てくる。
今はヘッドフォンをしているから、あの人の思考が伝わる。
チャンスは、今しかないと。
目を1度目を閉じて周りの声は頭から排除し、円華の心の声にだけ集中する。
すると、今までに聞いたことのない、円華の悲しげな声が聞こえてくる。
『俺は呪われている。俺が好きになった人やものは、俺から離れていく』
『……みんなを大切だと思う度に、心が痛くなる!!』
『誰も信じるな。信じたら、裏切られる……』
『ダメだ、ダメだ、ダメなんだよ!!俺は……誰のことも好きになったらダメなんだ!!』
『俺が
『姉さんは俺の全てだった……。俺は、ずっと孤独に…生きていくしかないんだ』
『俺は人間なのか?……わからない、俺は……俺と言う存在は、一体……何なんだよぉお!!』
悲しい声、感情が伝わってくる。
これが、円華の心の声の奥底にある、深層心理の声。
「円華はバカだよ……ずっと1人でこんなことを思って……抱えて……!!」
円華の過去は見えても、心の声が聞こえても、その本当の声は聞こえていなかった。
本当の意味で、能力を使えていなかった。
両目に意識を集中すれば、円華の『声』がする方に身体を向け、そのまま開眼した。
すると、私の意識は身体を離れ、光速で円華の体に入っていった。
これが私の能力の本当の力『リンク』。
相手が自分に心を許していなければできない、相手の精神世界に入ることができる『力』。
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意識が完全に繋がり、その世界でゆっくりと目を開ける。
円華の精神世界は背景が全て白かった。
下から巨大な紅の氷柱が何百本も出ていて、これ以上進ませないと言うように四方八方を塞いでいる。
これが、円華の精神世界。
氷の世界。
氷に近づいてみると、ある違和感に私は気づいた。
鏡のようになっていて、私のことが写っている。
身体は若干白く輝いている。
多分、私がこの世界の部外者だからかもしれない。
それは別に構わない。
ただ……。
氷に写る自身の姿を顔から足の指先まで見ると、顔が……というか、全身が熱くなる。
今の私は服どころか、ブラジャーやショーツすらも身に付けていない状態。
つまりーー。
「どうして、私……裸!?」
両胸を隠し、片手で頭を押さえて大きな溜め息をついた。
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