全てを疑え

人狼ゲーム7日目。


 昼休みの時に、クラスの女子の坂木が話しかけてきた。


 彼女は占い師候補の1人だ。


「あの、椿くん、お時間よろしいかしら?」


 その表情と声は少し恐れているようだったので、坂木の緊張を解こうと麗音並みのニコッとした笑みをすれば、逆に畏縮したような態度になり、彼女が後ろを向いて「やっぱり出直します」と言ったの止めて謝る。


 そして、確認のためにこう聞いた。


「それで、どうだった?」


「白色でした。安心です」


「そうか、それは何よりだ。ちょっと聞きたいことが2点あるから、場所を変えようか?」


「椿くんがそうしたいのでしたら」


 席を立って坂木と教室を出ようとすれば、一瞬、背中に殺気にも近い矢のような視線が3本ほど刺さるのを感じた。


 チラッとさりげなく後ろを見ると、麗音がニコッとした笑みをしながら『おい、あんた、何する気?変なことしたら、どうなるかわかってる?』と言う風に威圧してきて、成瀬はスマホを片手に『いいご身分ね』と冷ややかな視線を、新森は何を考えているのかはわからないが敵意があることは鋭い目付きからわかる。


 その3人の視線に対して気づかないふりをしたが、無意識に溜め息をついてしまった。


 俺は女に何か負の感情を抱かせる天才なのだろうか。うん、今後は気をつけねぇと。


 選択教室に移動して鍵を閉めれば、坂木は俺をじっと見てくる。


「それで、私に聞きたいことって何ですか?」


「単刀直入で助かるぜ。それじゃ、まず1つ目は、あんたが今把握しているクラスメイトの役職を教えてくれねぇか?」


「はい、占いの結果、やなぎくんと国山さん、大野くんは村人でした」


「そうか…それで?残りは?」


「…私が調べたのは、その3人だけです」


 少し震えながら言う坂木の目は、俺から視線を逸らしている。


 嘘をつくのが下手だな。と言うか、どうして嘘をつく必要があるんだ?


 坂木楓さかき かえで。黒髪に白いリボンを頭の上の方でしている女子で、クラスの中でも、多数決なら自己主張をせずに流れに任せて多い方の味方をする方だと勝手に認識している。休み時間はいつも麗音と一緒に話しており、仲は良さそうに見える(表面上は)。


 いや、麗音以外とは話しているところを見たことがない。


 優等生モードの麗音は、誰にでも笑顔でフレンドリーに接しているから、彼女のことを慕っている者は男女問わず多いだろう。


 いろいろな可能性を考慮すれば、1分もせずに答えは見えてきた。


 少しの沈黙の後、核心をつく言葉を発した。


「あんた、最初から麗音が人狼だって知ってただろ?」


「っ!?」


 俺の一言で、坂木は目を見開いて驚いた。


 図星か。


「おそらく、この人狼ゲームで一番最初に占ったんじゃないか?親しい友人だと思っている麗音が人狼ではないとわかれば、安心するから。けど、予想に反して麗音が人狼だった。投票者と投票された者は名前がバレるのだから、この人狼ゲームが終われば、唯一の友人である麗音と疎遠そえんになるかもしれない。だから、黙ってるんじゃないのか?」


「そ、それは違うよ!!麗音ちゃんは人狼なんかじゃない!!だって…!!」


「だって…何?」


 少し威圧するように聞けば、坂木は言葉が続かない。


 って、違う違う。これじゃ、追い詰めてるだけだろ‼


 占い師である坂木には確認しなきゃいけないことがある。ここで険悪な空気にするのは得策じゃない!!


 深呼吸して冷静に頭を切り替えれば、坂木に頭を下げる。


「悪い、別に麗音が人狼ってことを言わなかったことで怒っているわけじゃねぇよ。逆にこのゲームはクラスの人狼を当てたらダメなんだから、坂木の判断は間違っていない」


「…それって、どう言うこと?」


 言っていることがわかっていない坂木に、俺は今回の人狼ゲームの本質的な所を説明した。


 すると、坂木は目を見開いて両手で顔を覆う。


「じゃあ…麗音ちゃんは、犠牲にならなくていいんだね!?」


「まぁな。だけど、これはクラスのみんなには言わないでくれ」


「どうして?みんなに言えば、誰も人狼を捜そうとはしないでしょ?」


「それだと、ほかのクラスに怪しまれる。地下に居るからって、放課後に緊張状態にないFクラスなんて見たら『どう言うことなんだ?』って考える余地を与えてしまうだろ」


「そ、そうですね。椿くんって、いろいろと考えてるんだね?ちょっとイメージ変わったわ」


「……ちなみに、どういうイメージかを聞いても良いっすか?」


 恐る恐る聞けば、苦笑いしながら坂木は答えてくれた。


「その、優しそうなんだけど、ちょっと怖い部分もあって…。ほら、椿くんって口調がちょっと乱暴だから。それで軍人とか聞かされたら…みんな、余計に恐がっちゃうんです。で、でも!私はもう、椿くんは良い人だってわかったから‼だから…」


「わかった、ありがとう、もう大丈夫だ。時間もねぇし、2つ目の質問をしても良いか?」


「え、ええ」


「じゃあ…」


 監視カメラをチラッと見て、坂木にあることを小声で聞く。


 すると、坂木は黙って頷いてくれた。


 予想は当たった。


 これで、保険の有効性は実証されたも同然だ。


 勝つためなら何でもする。それが常識外れのゲームなら、何でもありだ。



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 麗音side



 放課後になって、あたしはいつもの4人と一緒に投票タイムに入っていた。


 久美が自身の調査結果をドヤ顔で言っていて、ズバリ人狼は入江くんだと言い始めた。


 いやいや、人狼はあたしだから。どういう自信で言ってるのかなぁ?


 あたしは笑顔のまま聞いてあげてるが、狩野くんはフードを被って寝ており、成瀬さんは退屈そうな表情をしてスマホを凝視している。


 そして、一番動向を見張らなければならない、気の抜けない男である椿円華くんはと言うと少し様子が変だ。


 顔がちょっと赤くなっていて、目がうつろに見え、何度もせき込んでいるしくしゃみもしている。


 2限目くらいだったが、椿くんは体育の授業の後に水道の水を飲もうとしたら、運悪く蛇口が外れてしまって、全身水浸しになってしまった。


 それで身体を温めるために3限目は保健室で休んでいて、4限目に復帰したけど、体調は絶不調なのは見てとれた。


 顔は真っ赤になっていて、せきばっかりしているからね。


 それで、授業担当の先生が「早退する?」と聞いても、椿くんはかたくなに帰ろうとはしなかった。


 そして、そのままずっと誰とも話そうとはしなかった。


 昼休みには、坂木さんと何処かに行っちゃうし…って、どうして思い出したらイライラしてるんだろう、あたし!?と…とにかく!何か様子がおかしいのは明らかなの!!


 机に額を付けて、スライムのように溶けそうになっているマスクを付けている椿くんに、あたしは心配する表情をして視線を送る。


「椿くん、大丈夫?調子が悪いなら言ってよ?」


 あたしがせっかく心配してあげてるのに、椿くんは机に突っ伏したまま激しく首を振る。


 様子がおかしいと言うか、風邪をひいてキャラが崩壊しているよ、この人。


 風邪を引いても、腕を組んでいつもの無表情のすまし顔をしているイメージがあったのに。


 成瀬さんの肩を軽く2回叩くと、彼女は不思議そうな表情をしてこちらを見る。


「住良木さん、どうかしたの?」


「うん…椿くん、様子がおかしいって言うのを通り越して、変じゃない?」


 椿くんを指さして言えば、成瀬さんも彼を見て、目を細める。


「そうかしら。私、住良木さんほど椿くんのことをよくは見ていないから、その質問に返答しかねるわ」


「わ、私だって、そんなに椿くんのことを見てるわけじゃないよ!?」


「…そう?授業中とか、3分に1度は彼の方を見てるのをたまに見かけるのだけれど、それは私の勘違いかしら?」


 どこから取り出したのか、扇子せんすを広げて口元を隠して目が笑っている成瀬さん。


 それに対してみょうに怒りを覚えるが、そこは感情を押し殺してニコニコと微笑んでおく。


「気のせいだよ、気のせい」


「…なら、そう言うことにしておくわ」


 成瀬さんは余裕そうな笑みをしている。ヤバい、凄くウザい…。


「そう言う成瀬さんだって、いっつも椿くんの隣に居ようとしてな~い?興味でもあるの?今だって、隣に座ってるし」


「…あ~ら、ごめんなさい、住良木さん。言ってることがわからないわ~。ちょっと、耳が一瞬だけ遠くなったみたい。もう1度だけ言う覚悟があるのなら、もう一回だけ言ってみてくれるからしら~?」


「だ~か~ら~、要は成瀬さんって椿くんと親しいなぁ~って思ってるだけだよ~?」


 見るからに不機嫌ながらに笑っている成瀬さんだけど、あたしも怒りは感じてるのでお相子あいこだ。


 どうして、このあたしが椿くんなんかに…って、別にきらってるわけじゃないし…けど、他人に面と向かって言われるとムカムカするし…あ~、もう、意味わかんない!!


 椿くん本人はと言うと、ずっと突っ伏したまま無言をつき通している。


 後から気づいたけど、成瀬さんとあたしが笑顔で言い合っている間に、狩野くんや久美も気づかずに帰ってしまったらしい。


 結局、椿くんのあの変化は何だったんだろうか?


 投票タイムが始まって1時間後、監視カメラの点検に来た背の高い白いひげを生やしたおじさんに教室を追い出され、あたしたちはりょうに帰った。



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 真央side



 生徒会の役割として、僕は本校舎の中を見回りしている。


 風紀委員の仕事なのではないかっと言われそうだが、この学園のその委員はただの暴力集団だ。規律をおもんじるためには、生徒会自らが取り締まらなければならない。


 力がすべての場所ではあるが、ルールは守らなければならない。


 Eクラスの前を通ると、早速Bクラスの不良生徒が気弱そうなEクラスの女子生徒に迫っている現場を見つけた。


「だからさ~?今、暇だろ?俺と遊ぼうって言ってるだけじゃん?カラオケでも行こうぜ~?」


「い、いや…ですから、私は友達と待ち合わせていて…」


「そんなの別に良いじゃ~ん?…それとも何?Eクラスの君が~、Bクラスの俺に逆らうの~?」


「…その理論で行くのなら、Bクラスの君は、Sクラスの僕の命令には従うと言うことで良いのかな」


 女子生徒の前にかばうようにして立って言えば、僕のことを見てBクラスの男子生徒は言葉が詰まる。


「生徒会役員であり、Sクラスである僕が君に命令する。この場を去りなさい。…事を大事にしたくはないでしょ?」


「…っ!!」


 露骨に舌打ちをすれば、両手をズボンのポケットに入れて不機嫌な顔で男子生徒は去って行った。


 Bクラスは腹黒い生徒が多いと聞くが…こういう露骨なバカも居るようだ。今後も注意は必要だね。


 女子生徒の方を向いて笑顔を向ければ、彼女は頭を下げて礼を言ってくれた。


「あ、ありがとうございました!」


「いえいえ、生徒会役員として当然のことですから。それでは、これで」


 優雅にお辞儀をし、見回りに戻る。


 力さえあれば、何をしても許されるがそれでも限度はある。

 過去には殺人事件も起きていたようだが、それを生徒会と言う抑止力を持って犯罪は極力抑えられている。


 ポケットに手を入れると、自分の席にに忘れてきたことに気づき、Sクラスの教室に戻れば、監視カメラの点検が、もう白い髭面ひげづら業者ぎょうしゃさんによって始まっていた。


「お疲れ様です、大変そうですね?」


 業者さんは不愛想に会釈するだけだった。


 腰が曲がっている業者さんに一礼してから、僕はスマホを回収して教室を出る。


 会長が学園長に提案した監視カメラの点検らしいが、どうしてそうしたのかはわからない。


 監視カメラは正常に作動しているし、どこかに問題があるなどの報告はなかった。


 もしかして、椿円華を警戒してのことだったのだろうか。

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