人狼ゲーム、スタート

 クラス対抗人狼ゲームの開始日の朝。


 全校生徒のスマホに、それぞれの役職をメールで送信された。


 教室に入ると、その場に居たクラスメイト全員から睨まれるような鋭い眼光が来る。


 そんなのは気にせずに自分の席に着けば、スマホにメールが来た。成瀬からだ。


 『最低な1日ね』とだけ書かれていた。


 『直接言え』と返信すれば、『人狼とも狂人とも疑われたくないのよ』と返ってくる。


 なら、メールしていること自体が疑われる要因にならないだろうか?って書いたらキレて睨まれるんだろうなぁ。


 とりあえず、『そうか』と素気なく返した。


 最近、成瀬は人付き合いが苦手なだけでなく、素直になれないだけの構ってちゃんなのではないだろうかっと言う可能性が高くなってきた。


 あれでもうちょっと素直にデレることができれば、ギャルゲーのヒロインに成れるのに。


 欠伸あくびをしながらスマホを触っていると、今回の人狼ゲームで鍵を握る役割の1人、クラス委員であらせられる麗音さんが俺に近づいてきた。


「おはよう、椿くん」


「ああ、よっす。早速クラス雰囲気は険悪だが、クラス委員の仕事がんばれよ?」


「うん!2週間、よろしくね!一緒にがんばろう!」


 俺は他人行儀のようにエールを送ったつもりなのだが、麗音の応答は何か変なニュアンスを感じたので、露骨に真顔で「はぁ?」と言ってしまうと、彼女は「ん?」っと首を傾けて自身の人差し指を頬に付けている。


 そして、少しの間お互いの目をじーっと見ていると、俺は恐る恐る小声で話す体勢にして聞いてみる。


「俺も……がんばるのか?」


「うん、そうだよ?だって、椿くんの職業って探偵でしょ?」


 スマホを出し、誰にも見られない様にして確認すれば、確かにメールに、俺の役職は探偵と書かれてあった。そして、注意書きに『クラス委員は助手となりますので、協力して人狼を捜してくださいね☆応援していますよ、椿さん by真央』と在った。


 頭を両手で抱えて目の前に居るニコニコとした笑みをしているクラス委員の美少女を見れば、溜め息をつかずにはいられなかった。


 これ、完全にアウトな役職だ。特に2人っきりになった時は…大変そうだな。


 朝礼では岸野先生から改めて詳しいルールを説明してもらい、人狼ゲームが始まった。



 ーーーーー



 授業中もクラスメイトたちは辺りを警戒しており、全く授業に集中していない。能力点がかっているのだから、当然か。


 俺を含めたいつもの5人、マイペースグループ(俺が勝手に名づけた)は、周りほど殺伐さつばつとしたものは放っていない。


 麗音と成瀬は普通に板書をノートに写して真面目に授業を受けているが、基樹は授業に集中…しているように見せて、ロダンの考える人の体勢をして寝ており、新森は爪にマニキュアを塗っていた。


 能力が全てで態度は関係ないにしても、もう少しは真面目にできないのか、そこの頭が軽い2人は。


 2人のことは気にしないようにして周りを見るが、別段怪しいと思うような素振りは誰もしていない。


 人狼はスマホで1日のうちで、朝礼から終礼までの間に1人の能力点を奪うことができる。


 ちなみにこの2週間で生徒間でスマホを開示することは禁止行為とされており、それを違反したものも尞に幽閉ゆうへいされる。


 投票できるのは放課後の1時間だけ。しかも、できるのは1人だけ。


 クラス委員が、誰が投票するかを選ぶらしい。


 最初の投票タイムまで、残り時間は刻一刻と過ぎて行く。


 気づけば、もう昼休みになっていた。


 ここは無能な探偵よりも、チートスキルを持っている奴を巻き込むか。


 1人ぽつんっと自分の席で小さな弁当を小さな口で食べている成瀬に近づき、「よっ」と声をかける。


 すると、成瀬は俺の顔を見るや否や露骨に溜め息をついた。


「あなたの私への用件、当ててあげましょうか?」


「まぁ…できるなら」


「学園のサーバーにハッキングでアクセスして、人狼が誰なのかを調べてくれ…って、言うつもりだったんでしょ?」


「正解。成瀬大先生のお手を借りたいんですがねぇ」


「無理。できないわ」


 いつものように、素気なく返された。ここまでは予想通り―――と思っていたが、成瀬の表情が微妙びみょうけわしくなっていることに気づいた。


「なぁ、成瀬」


「何かしら?」


「もしかして……アクセスできなくなったとかじゃ……ないよな?」


 恐る恐る聞けば、ギロッと今までにない…と言うか、顔の半分が前髪の影で黒く見えるくらいの怒気どきで睨んできた。


「大!正!解!この前、あなたの個人データへのハッキングをしたせいで、サーバーの守りが強固きょうこになったのよ!パスワードも5桁から6桁になってるし、データ1つ1つに細かくロックがされていたわ!はぁ……ありがとう、椿くん。この2週間、パスワードとロックの外し方を1つ1つ明確にしていくために、私は忙しくなったわ。今回のゲームで私は無力になるけれど、どうぞがんばってね?」


 満面の作り笑顔をして言ってくる成瀬に、俺は謝意しゃいと同時に恐怖を感じ「失礼しましたー、がんばりまーす」っと言って逃げるように彼女から離れた。


 女の怒った時の作り笑顔、マジで恐い!!


 チートを封印され、5、6時間目は真面目に人狼を捜しながら授業を受け、終礼を終えれば岸野先生がスマホを確認し、タバコを吸いながら今回の追放者を読み上げた。

 

「人狼ゲーム、このクラスでの最初の犠牲者は…伊礼瀬奈いれい せなか。伊礼、明日から残りの日数、自室待機になる。食事とか、身体を拭くタオルと湯はスマホで注文すれば、無料で支給しきゅうするから、絶対に自分の部屋から出るんじゃねぇぞ?外出がバレたら、クラスはどんなにポイントを稼ごうと最下位だからな」


 伊礼と呼ばれた眼鏡をかけている女子は、「はい…」と返事をした。


 同情の目が周りから来る中、伊礼は萎縮いしゅくしてしまっている。


 影が薄いというか、成瀬とは正反対の意味で、人付き合いが苦手そうに見える。


 放課後になれば、マイペースグループ(成瀬抜き)以外は教室を出ていき、残り1時間の間に誰に投票するかを考えていた。


 今回投票するのは基樹になった。探偵の俺が最初に投票するのは、狙われる可能性があるので危険と言う判断だ。


 白い紙に投票者の名前を書き、投票する者の名前を書いて投票箱に入れるだけ。それを生徒会が30分後に回収に来て、持って行った。


「いや~、明日が怖いな~。この人狼ゲーム、追放されるのは人狼に食われる奴だけじゃん?もしも、人狼に目をつけられたら、次に追放されるのって俺ってわけじゃ~ん?」


「その時は、素直に生贄いけにえになってくれ」


「円華、酷~い!!これで本当に追放になったら、円華のせいにしてやるからな!!」


「それはぎぬはなはだしいな」


 この人狼ゲームはおかしい。普通の人狼ゲームは人狼に食われた者も、人狼と疑われて投票された者も追放される。


 しかし、このクラス対抗人狼ゲームでは投票の場合、翌日に誰が投票されたのかを報告されることもなく、追放されることもない。


 どこよりも早く、人狼に投票することができたクラスが有利になる。


 あくまで、人狼かどうかがわかるのは最終日の発表の瞬間。


 こんなルールに、一体どんな意味があるのだろうか。


 とりあえず、1日目はこれで終わりだ。


 ゲームが本格的に動くのは、2日目からだ。

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