クラス対抗人狼ゲーム

 朝礼が終わった後のことだ。


 クラスのみんなが立ち上がり、男女に別れて廊下で列を作って並び始めた。


 一応は流れを読んで基樹の左隣に並んで前に進めば、パーカーのフードを被って溜め息をつく彼を見る。


「どうした?基樹」


「いや~、1か月に1度とはいえ、学年集会でイビられるのは憂鬱ゆううつだな~って思ってな~」


「学年集会?何だ、それ。集会って言うなら、パーティーでもするのか?」


 何も考えずに率直に思いついたことを言ってみると、基樹に「ハハハッ、アメリカの集会ってそうなの~?それは愉快ゆかいだね~」と返された。何だよ、違のか。


「アメリカのはどうか知らないけど、日本の学校で集会って言ったら、本校舎で学年主任からのありがた~いお言葉を頂戴ちょうだいしたり、今後の予定についての確認をされて終わり。俺たちFクラスをイビリながらな~」


「それは災難さいなんだな」


「結構きついぜ~?けど、今考えたら、今回はそんなにイビリは無いかもな。円華のおかげで」


 言っていることに全く心当たりがないので「俺のおかげ?」と聞き返せば、基樹が校舎の柱に設置されている画面の決闘ランキングを指さした。


 そこには各学年の上位10名の名前が出ており、1年の順位の中に6位で俺の名前が出ていた。


「Fクラスから上位者が出るなんて異常だ、取り消せって声もあったらしいけど、学園長がFクラスだろうが何だろうが力を出した結果だ。それは公平に評価されるべきだって言ったらしいぜ?」


「つまり、学園長様の言葉が無ければ、俺の評価は無かったことになってたってことか」


「そう言うこったな~。いや~、学園長サマサマですな~」


 陽気に笑いながら言う基樹だが、逆にこれは俺に対する宣戦布告のように思えてくる。


 姉さんの死の真相について探ろうとしている俺を全校生徒に邪魔者扱いさせ、多くの銃口を向けさせて排除するために。


 クラス全員が入れるくらいの大きさのエレベーターに乗れば、そこで男女がごちゃ混ぜになり、俺の右隣に居た基樹が離れてしまったが左隣には麗音が居た。


 早朝のことがあっただけに距離を置くのかと思えば、麗音はこっちを見て笑顔を向けてきた。


「椿くん、どうかしたの?」


「い、いやー、別にー」


 こちらも作り笑顔をする。


 前と今では、その笑顔の意味が違うことには流石に気づく。若干恐い。


「決闘ランキング、さっきチラッと見たけど学年で6位って凄いね?」


「そうだな。俺もまさか、Cクラスの奴に1勝しただけで一桁になるなんて思いもしなかったぜ」


「1位の人の名前、見た?」


「興味が無かったから見てねぇよ」


「生徒会の人だよ。名前は石上真央…だったかな」


「真央が?流石は生徒会だな」


 生徒会だから上位なのかと考えていたが、そこは麗音に「違うよ」と言われた。


「ずっと決闘ランキングで1位だったから。そして、中間テストでは今居るSクラス全員を総合上位50番以内に入れるほどの指導力と誘導力を見せたから、彼は生徒会に入れた」


「それ、絶対に真央が中間テストの総合順位1位だろ」


「もちろん」


 笑顔が印象的な真央の顔を思い出し、麗音のことを見て気づいたことがある。


 無垢むくそうな微笑みをする者には、全員ではないかもしれないが裏の顔があるのだと。


 うん、人生の教訓にしておこう。


 そんなことを思っていると、エレベーターが地上に着き、次々と出て行く。


 最後に出ようとした時、麗音がベタに「あっ、制服に髪の毛付いてるよ?」っと言って俺の肩に手を置いて耳に顔を近づければ、声のトーンを少し低くしてこう言った。


「朝のことを誰かに言ったら、あらゆる手を使ってあんたの人生をぶっ壊してやるから」


「ですよねー」


 言うつもりはないと言ったはずだが、予想通り、くぎしてきたか。


 面倒なことになったな。



 ------



 本校舎の体育館にS~Fクラスが集まり、学年集会が始まった。


 早速、学年主任の図体のでかいオッサンがFクラスをディスりながら話を始めた。


「選ばれし者のみんな、おはよう。中間テストによって最後のクラス分けをして1か月が経った。Fクラスのようなゴミにならないように、みんな日々精進していることだろう。このまま、文武両道を心がけ、この全員で2年に上がることを願っている」


 その全員の中に、Fクラスは入ってないだろ。


 それにしても、学年主任の言葉はちゃんと聞けよ。おまえらにエールを送ってるんだぜ?


 こっちに集中放火で睨みつけてくんなよな…。


 決闘ランキングが上位ってことはそれだけ、この先狙われるってことか。 


 先生の期末テストはより一層頑張るようにとの俺たち以外へのありがたいお言葉が終われば、次にS組であり生徒会役員の真央が壇上だんじょうに上がった。


 女子がキャーキャーとうるさくなるが、それに軽く手を振って対応する真央に少し尊敬の念を抱いた。


 俺なら「やかましい」って睨みつけそうだからな。


 前の方から、それぞれの担任教師からプリントが1枚ずつ回される。


 それを受け取って目を通せば、「クラス対抗人狼ゲーム」とその概要が書かれていた。


 壇上の真央が説明を始める。


「みなさん、プリントは回りましたね?これから、我々生徒会が企画した『クラス対抗人狼ゲーム』についてご説明します。これは、一気に能力点を獲得し、上のクラスにがるための救済処置と考えてください。Fクラスのみなさんは、特に頑張ってくださいね?」


 真央がFクラスの方を見た時、勘違いかもしれねぇけど彼と目が合ったような気がした。


「今回の人狼ゲームは、各クラスに村人、人狼、占い師、狩人、狂人と言う一般的な役職に加え、この学園特有の役職として、探偵が存在します。村人以外は、それぞれ1人です。人狼ゲームの期間は2週間、その間に人狼は1日に1度、クラス内の村人1人を指定し、その人の能力点を全て奪うことができます。能力点を奪われた村人は、ゲーム終了日までの残りの日数をりょうからの外出は禁止となります。2週間、自身が人狼と言うことに誰にも気づかれなければ、人狼の勝利。人狼の方には能力点+100000(10万)と現金1000万が支給されます。そして、人狼以外のクラスの方から能力点と現金をそれぞれー10000(1万)します。しかし、誰かが人狼の正体を当てた場合は、そのクラスの全員に能力点+1000と現金10万を支給します。その場合、人狼さんの能力点と現金は全て没収となりますのでご注意ください」


 人狼はリスクが高いが、その分勝利すれば報酬が高い。しかし、村人は目に見えない人狼から能力点を奪われることに恐怖を覚え、疑心暗鬼ぎしんあんきになる上に人狼を見つけたとしてももらえる報酬は少ない。


 お得なのは人狼か。


「そして、この人狼ゲームがクラス対抗であることを忘れてはいけません。この2週間の間に、S~Fクラスで、人狼を早く見つけ、当てたクラスから、1位は+10000、2位は+5000、3位は+1000と能力点にボーナスポイントが付いてきます。そして、最終的にチーム全体で獲得した能力点のポイントの合計が一番高いクラスが優勝になり、現金1000万が支給されます」


 これもランキング方式か。クラス全体の利益を考慮すれば、より早く人狼を見つけることが先決だな。


「それでは、村人と人狼以外の役職について説明しましょう。占い師は、1日に1度だけ、指定した村人1人が人狼かどうかを確かめることができます。狩人は指定した村人1人が人狼に襲われそうになったときに、それを守ることができます。狂人は人狼の協力者ですが、誰が人狼かはわかりません。…そして、みなさんが気になるでしょう最後の役職である探偵ですが…これには何のスキルも在りません。しかし、もしも探偵が人狼を当てた場合は…クラスに入る能力点が2倍になります」


 その場に居た全員に衝撃が走った。普通、人狼ゲームで重要視じゅうようしされるのは占い師だが、このクラス対抗と言う条件下では、探偵が一番の鍵を握る。


 占い師もそうだが、探偵も残しておかなければならない。


「人狼の投票方法ですが、各クラスに1つずつ、投票箱を設置します。投票ができるのは1日に1度だけ。投票は、クラスの誰か1人にしてもらいますが、その投票する誰かを指定するのはクラス委員です。よろしくお願いしますね?投票した相手が人狼かどうかの結果は、ゲーム終了日の結果発表で明かされます。これで、説明は終わります。質問は受け付けませんので、あとは皆さんの洞察力と発想力に期待します」


 説明用のプリントを整え、真央は優雅にお辞儀をした。


「それでは、これでクラス対抗人狼ゲームの説明を終わります。ご清聴せいちょうありがとうございました。誰がどの役職になるのかは、今日の夜にメールで一斉送信します。楽しみにしてくださいね?」


 さわやかな笑顔で言えば、壇上を下りる真央。


 その後ろ姿を見て、彼の肩が周りに気づかれない様に小刻みに震えているのがわかったが、あえて気にしないようにした。


 クラス対抗人狼ゲーム。


 今までにない疑心暗鬼の時間が、明日から始まる。

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