決闘開始

 放課後になり、Fクラスに生徒会の腕章わんしょうをつけた男子生徒が2人入ってきて、席に座っている俺に近づいてきた。


「椿円華様ですね。お迎えに上がりました」


「……お迎え?」


 意味不明な言葉に聞き返すと、男の1人がニコッとした笑みで説明してくれた。


「はい、我々生徒会の者が、決闘の会場であるコロシアムルームまであなたをご案内いたします」


「そう言うことか」


 席から立つと2人に前後に挟まれる形になり、そのまま教室を出る。まるで、刑務所に連行される気分だ。


 おそらく、決闘から逃げない様にするための陣形だろうな。


 校舎を出れば、そのまま地下と地上を繋ぐエレベーターに連れて行かれ、中に入れられる。


 ちなみにエレベーターは指紋認証式であり、Fクラスの者は地上には出れない様になっている。


 上がっている間、地下の街の様子を見ているだけでも暇だから2人に話しかけてみようか。


「なぁ、あんたらのクラスってどこか聞いて良いか?」


「Sクラスですが、それが何か?」


 人当りが良さそうな方は笑顔で答えてくれたが、日焼けをしている根暗そうな方は答えてくれなかった。


「いや、やっぱりかって思っただけさ。生徒会って、SかAしか入れなさそうんだなってイメージが在ったから」


「そうですか。でも、そう言うわけでもないんですよ?僕の先輩で、Fクラスからでも生徒会に入ったと言う伝説を作った方も居ますから」


「そうか。……それって、やっぱり入れるかどうかの基準も実力ってことだよな?」


「ええ、その通りです。僕もSクラスだからと言うわけではなく、実力を認められたから入れただけです。貴方でも、この決闘で力を示すことができれば、生徒会に入れるかもしれませんよ?」


「考えとく」


 そうして沈黙が流れると、エレベーターが着いた音が聞こえ、「着きました」と生徒会の男が言い、扉が開いたので出るように促される。


 そのままエレベーターを出ると、少し目を見開いてしまった。


「おい、これってどういうことだよ?」


 目の前に広がるのは、だだっ広い白い空間。その中央には、黒いテーブルが置いてある。


 そして、天井の隅には4つの監視カメラが付いている。


 咳払いをして、生徒会の男もエレベーターを出て俺を笑顔で見る。


「このエレベーターは、地下とコロシアムルームも繋いでいます。ようこそ、能力がすべてのコロシアムへ。この空間は、あなたを歓迎すると思いますよ?」


「そうだと嬉しいけど」


 向こう側では、スマホを持っている田篠がこちらを見ている。自信たっぷりな目で。


 お互いにテーブルを挟んで対面で立つ。


「さっきぶりだな、覚悟はできたか?」


「特に何も考えてなかったんだけど。基本、無心なんで」


「では、この決闘で貴様の心を絶望で埋め尽くしてやる」


「丁寧にお断りしておく」


 天井から映像画面が下りてきて、そこに高機能AIのレスタが映る。


『この度は、決闘システムをご利用いただきありがとうございます。お2人の力を最大限発揮し、より良い勝負を期待しています』


 彼女の言葉に、俺は笑顔で手を振り、田篠は無視する。


『この決闘は、私がルーラーになり、できるだけ公平こうへいに進行いたします。今回の決闘の種目は、田篠様のご希望により腕相撲になりました。純粋な力のぶつかり合いですね。楽しみです!』


 ワクワクする表情をしているレスタに「レスタは可愛いね~」と言えば、彼女は頬を染めて『嫌ですよ~、椿さん。人前で言うなんて恥ずかしいじゃないですか~』と照れた。


 俺とレスタが一言交わせば、田篠は俺を睨む。


「たかがAIと話す暇があるほどの余裕よゆうなのか?」


「余裕かどうかは、見ればわかるだろ?ねぇよ。けど…これはただの通過点だ。俺は、この状況を利用する」


 顔は無表情のままだが、心の中でスイッチを入れた。


 そして、お互いに右手のひじをテーブルを付け、手を握って腕相撲うでずもうの体勢を作った。



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 麗音side



 椿くんが生徒会の人に連れて行かれた。これから彼が受ける地獄を思うと、胸が痛い。


 教室に残っている皆の口からは、椿くんに対する同情の声が聞こえてくる。


「あの転入生、2日の命だったな」「顔は好みだったんだけどねぇ。Cクラスに目を付けられたら仕方ないよ」「あいつ、可哀想に」


 私が小さく溜め息をつくと、くせっ毛のある茶髪をツインテールにしているギャルっぽい女子が「麗音っち、大丈夫?」と話しかけてきました。


 友達の新森久実あらもり くみです。


「久実ちゃん…うん」


「見るからに大丈夫じゃないよね。椿っち…まさか初の生贄になるなんて。Fクラスと決闘をする目的なんて、見せしめに決まってる。反乱分子は、すぐに潰しておこうってところかな」


「で、でも!椿くんが負けるって決まったわけじゃないよね。奇跡が起きるって可能性も…」


「無いよ。この決闘に関しては、奇跡なんて起きる余地がないのは知ってるじゃん。それこそ、椿っちが謎スキルを使うくらいじゃないと、天地はひっくり返らない」


「…そう、だよね」


 成瀬さんを見ると、彼女は椿くんを心配するような素振りは見せず、黙々と自分の席でスマホを触っている。遠目で見ると、メールを書いているらしい。


 私は、久実と離れて成瀬さんの元に行った。


「成瀬さんは、椿くんのことが心配じゃないの?」


「心配したとしても、状況が変わるわけじゃない。私が彼にできる助力はできる限りしたわ。後は、椿くん次第よ」


「それはわかってるんだけど…」


「住良木さんは優しいのね?もしも、椿くんが決闘に勝って戻って来たなら、その優しさで迎えてあげることね。私には絶対にできないから」


 表情1つ変えず、スマホを見たまま話す成瀬さんを見て、誰とメールしているのかが気になり、私はスマホを覗き込む。


 その画面を見て、私は目を見開いて口を両手で塞いだ。


「成瀬さん、それって…!!」


「ええ、流石の私でも驚いた。多分、昼休みの間に見せた田篠くんのデータを見て、すぐに思いついたことかもしれない。早速、私のことを利用したわ」


「でも、こんなことをして何の意味があるの?自分で自分の首を絞めてるだけだよね」


「さぁ?私はただ、頼まれたことをしただけだから、彼の真意まではわからないわ。だけど…確信して言えることがある」


「確信して…言えること?」


 私が首を少し傾げて聞くと、成瀬さんは小さく笑む。まるで、新しい玩具を手に入れた子供のように。


「椿くんは、田篠くんではない誰かに何かを仕掛けようとしている。それも、とんでもないことをね」


「…そうだね。それは、私にもなんとなくわかるよ」


 昨日の、柏原くんから私を助けてくれる直前の椿くんの目を思い出す。瞳の奥に、黒い何かが見えたような気がした。あれは錯覚なんかじゃないはず。


 私と成瀬さんが話している時に、黒板の前に上からスクリーンが下りてきて、教室の電気が消える。そして、あのAIからの校内放送が流れた。


『生徒のみなさん、ごきげんよう。もうそろそろで、Cクラスの田篠真様とFクラスの椿円華様の決闘が開始されます。みなさんにはこれから、お手元のスマートフォンでどちらが勝つのか賭けをしてもらいます。勝者を当てた方は能力点が+10点、外された方は-10点になります。さぁ!皆さんの観察力と運をフルに働かせ、ポイントを勝ち取りましょう!!』


 ついに、決闘が始まる。勝利の審判者がどちらに着くのかは、彼ら次第だ。

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