拒否権なし

 昼休みの時間、昨日と同じで1人黙々と買ったパンを食べていた時、俺の机の前にいきなり違うクラスの男子生徒3人が立った。


 その後ろには、昨日会った柏原も居る。おそらく、Cクラスの番長的な奴等やつらだろう。


 作り笑いをして話しかけてみる。


「やぁやぁ、みなさん。俺に何かご用ですか?昼休みは、1人のか弱い男子生徒を多勢が囲んで威圧するような時間じゃないでしょ」


 3人の中でも大柄な男子が前に出て、見下ろしてくる。


「確かにそうだな。しかし、貴様は我々のクラスの者を、Fクラスの分際で傷つけた。よって、我々は…」


「そう言う固い言葉使いは、聞いてて気持ち悪いんだ。要は、集団リンチをしにきたんだろ?昨日のことを口実に、俺を殴ってストレス解消って感じかな」


 用件を代弁して言えば、目を細められてしまう。


 図星か、それとも侮辱したと受け取って怒りを覚えたのか。


「リンチ等という下等かとうな者がするものではない。我々は……いや、この私、田篠誠たしの せいは、貴様に決闘けっとうを申し込みに来たのだ」


「決闘?何それ。昨日転入してきたばかりの俺にもわかるように説明してくれ」


「良かろう。決闘とは、本校舎の一室で行う能力点アビリティポイントを賭けた勝負だ。今回、私は貴様に1対1の勝負を申し込むが、チーム戦をすることもできる」


「それ、申し込むってへりくだった感じで言われたけど、Fクラスの俺が、Cクラスのおまえに拒否権なんてあるの?」


 無表情で頬杖をついて聞けば、田篠は見下ろしたまま笑う。


「もちろん、あるはずがあるまい」


「ですよねー。それで?その勝負って何をするの?剣でチャンバラするわけじゃないんだろ?」


「詳細は放課後の決闘直前に伝える。決闘は全校生徒や教師殿も見るイベントである。無様な戦いはするなよ?」


「決闘直前じゃ何の対策も練れない。フェアじゃねぇだろ。そんな状況で、無様な戦いはするなって言うのは建前たてまえだとしてもひどす―――」


 言い終わる前に髪を掴まれて前に引っ張られ、男子生徒の目の前に頭を持っていかれる。


 麗音が「椿くん!」っと名前を呼んで近づいてこようとしたのを成瀬が左手で止める。


 周りの空気が重たくなる。


 田篠は俺を睨み付けてこう言った。


「Fクラスのクズ風情に、公平を求める権利があると思うなよ?」


 あぁ、そういうスタンスね……面白い。


 俺は笑顔で「ならさぁ…」と区切った後、睨み返しながらこう言った。


「そのクズに万が一負けたとしても、逆恨みなんてするなよ?」


 眼を見て田篠は一瞬怯んだような表情を見せ、髪から手を離し「私が負けることは、天地が逆転したとしてもありえん」と言い、取り巻きを連れて教室を出ていった。


 その時に柏原から凄く睨まれたがそれは無視。


 Cクラスの連中が出てから麗音が近づいてきた。


「頭……大丈夫?あの田篠って人、柔道部だから力強いし、引っ張られて痛かったんじゃないかな?」


「大丈夫。これぐらいのことなら慣れてるから平気だ。心配してくれてありがとな」


 麗音に礼を言えば、成瀬が腕を組んで俺を見る。


「Fクラスに他のクラスから決闘の命令が来るなんて、私たちの代では前代未聞ぜんだいみもんだわ。ポイントを賭けるとしても、Fクラスは能力点が少ない生徒ばかり。お金で言えば小遣い稼ぎにもならない勝負だわ。よっぽど、プライドが高いのね。中間のCのくせに」


「底辺の俺たちに言えることじゃねぇだろ?怪我しない程度に頑張るさ」


 軽くスルーできるくらいのトーンで言ったのだが、麗音には心配そうな表情をされ、成瀬には目を細められる。


「あなた、決闘がどれほど恐ろしいものかをわかってないわね」


「当たり前だろ、転入2日目だぞ?決闘って言ったら、中世ヨーロッパの貴族たちがするレイピアでのチャンバラしか思い浮かばねぇよ」


「この学園で行われる決闘とは、あなたに合わせる言い方をするなら古代ローマのコロッセオと変わらないわ。あなたは奴隷で、相手は獅子しし。獅子が奴隷を襲う姿を、観戦者たちは嘲笑あざわらうように見て楽しむでしょうね」


「趣味が悪いな。本当に全校生徒や教師も、その決闘ってのを見るのか?」


「さぁ、そこまでは。私は興味がないから、生の決闘を見たことはないわ」


「なら、どういうものなのかのイメージが掴みにくいな」


 頭をかいて溜め息をつけば、麗音が「私は見たことあるよ」っと軽く手を挙げて言った。


「決闘は本校舎の四角い部屋で行われるの。中に入れるのは参加者だけ。審判はAIがするの。私がその時に見たのはカルタ勝負だったけど、それは一方の人が全戦全勝。もう、勝負にすらならなくて……負けた人は転校していったよ」


「転校していった?マジかよ」


「うん。相当、精神的に追い詰められてたみたいでね。私もあの時は見てて辛かったな」


 やっぱり、学園に居る奴全員に見られるのか。


 これはチャンスかもしれないな。


「ちなみに、それってどこのクラスの決闘だったんだ?」


「SクラスとBクラスの決闘だよ」


「Bクラスでも、Sクラスとの天と地の差に潰れていくのか。Sクラスには化け物でも居るのか?」


 苦笑いをすると、成瀬にスマホの角で頭を叩かれ「今はSクラスよりもCクラスでしょ?」っと強めのトーンで言われた。そして、スマホを見せられる。


 画面には、田篠の写真と個人データが書かれていた。


「これは?」


「見ればわかるでしょ?田篠のデータよ。あなたには貸しとして、特別に見せてあげるわ。今度からは10万円払ってね」


「今度からって……。別に良いか。それにしても、よくこんなデータを作れたな?」


 軽く目を通すだけでも、身体能力や学力、これまでの決闘の成績などが事細かにレーダーチャートやグラフなどでしるされていた。


「作ってないわ。学園のサーバーにアクセスして、私のスマホにコピーしたのよ」


「……え?どういうこと?」


「学園のデータベースにハッキングをしたって遠回しに言ったつもりだったのだけれど、伝わらなかったかしら」


「あー、そう言うこと」


 どうして成瀬がFクラスに居るのかがわかったような気がした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る