縛りのない学園
放課後になり、俺はクラス委員の
都会の街並みをモチーフにしているのか、高いビルや映画館、デパートまであり、部活に入っていない学生たちが大勢遊んでいる。
小さな校舎の中は場所をすぐに把握できたが、広い街の中は迷路のようになっており、
この学園は全寮制で、全生徒はクラスの階級別に場所が異なる。S、Aは超高級ホテル、B、Cは高級マンション、D、Eはアパートになっており、Fはボロくて今にも崩れそうな寮だった。
最初に下見したときは驚いたが、住めるだけでも良かったと思ってる。
街の中を歩き回りながら、少し質問してみようか。
「住良木さん、ちょっと…」
「椿くん、
「じゃあ、麗音。質問しても良いか?」
「うん、どうぞ」
「この学園はF組が最低ラインのクラスなんだよな?じゃあ、どうしたらF組に落とされるのかを教えてくれ」
転入手続きの時、俺は事前に岸野先生から、転入試験でどれだけ高得点を出そうが、最下層のFからのスタートになることは聞かされていた。
しかし、ずっと最下層に位置すると言うわけではなく、
能力点の評価の基準は、どれだけ学校側にとって良い生徒として振る舞えるかではないらしい。
俺はただ一言、岸野先生にこう言われた。
『何でも良いから、能力を示せ』
何でも良い。
それは学力や授業に対する姿勢、提出物を出しているかどうかや忘れ物だけで能力点を決めるわけではないと言うことだろう。
抽象的だが、それでいてシンプルな評価基準だ。
つまり、その力を示せなかった者が、Fクラスに落とされると言うことか。
そして、Fクラスに落ちても、学園の言う原石とは認められない者は退学させられる。
普通の高校生活を望む者には最悪な学園だ。
人差し指を唇の下に押し当てて思い出すように麗音は言った。
「最初の4月には、誰もFクラスには居なかったの。けど、5月の中間テストで改めてクラス分けをされて、ワースト1位から50位がFクラスに振り分けられたの。噂では、中間テストをする前に授業態度や日常生活を見て、問題を起こす生徒をピックアップしてあって、Fクラス送りにすることが決まっていたらしいけど」
「最初に振り分けられる力の基準は学力だったってわけか。それ以外でも、見た目の評価もされるのか。人は見た目が9割って言葉を思い出すな」
「そうだね。ちなみに、私は見事、中間テストでワースト50位でFクラスになってしまったということです」
苦笑いしながら言ってくる麗音の表情は、自然なものではなく作った笑みだとすぐにわかった。
ここで、今の話に少し違和感が出てくる。
「そういえば、噂の話からすると、中間テストでいくら高い順位だとしても、教師たちから目をつけられた生徒は、絶対にFに落ちるってことにならないか?」
「う~ん、それで合ってると思うよ?だから、テストの後からはホームルームや授業中に妨害なんて起きないし、誰も喋ろうとしないの」
言われて納得した。
だから、あんな不自然に静かだったのか。
「これ以上評価が落ちちゃったら、退学になっちゃうしね。それに…」
「それに…どうした?」
「このままFクラスに居ても、1年の終わりには全員が退学処分になっちゃうから、必死なんだよ」
「…そうらしいな」
階級制度だけでなく、学園は生徒を切り捨てる。
これは卒業生が1割を切ることの理由の1つだ。
2年に上がる時にFクラスが無くなり、3年になるときにはE、Dが無くなる。
そして、卒業許可が出るのは、Sクラスの生徒とA~Cの上位だけ。
余裕のある生徒でも、遊んでいられる時間は1年を過ぎるごとに極端に減っていく。
「強い者が残り、弱い者が去っていく。弱肉強食の資本主義の権化だな」
「弱肉強食かぁ…。難しい言葉を知ってるんだね?」
「2年前に覚えて、
5分くらい話ながら歩いていると、向こうから1人の柄の悪そうな男子生徒が近づいてきて、通りすぎ過ぎようとすれば、麗音の手が掴まれた。
「よぉ、麗音、ちょっと待てよ」
「か、
麗音は目を見開いて震えだす。柏原と言う男を恐れているように。
そして、柏原はギロッと俺を睨んできた。
「おまえ、 麗音の何?」
「ただのクラスメイト…だけど?」
「ふ~ん。こいつ、俺のだからさ、半径3メートル以内に入らないでくれる?」
「いや、同じクラスだから無理だろ。常識的に考えてくれよ」
無表情で正論を返してやると、柏原は麗音の腰に手を回し、彼女の胸を片方の手で
すると、麗音は「っ…!!」と悲痛な声を出して、拳を握りながら耐えている。
振りほどこうとも突きはなそうともしない。
けど、受け入れているようには見えない。
「おまえ、FクラスのくせにCクラスの俺に逆らうのか?麗音を見てみろよ。身分を
「
少し目を細めながら正論も言ったつもりだが、柏原は、今度は「あはははっ!!」とバカにしたような笑いをした。
「おまえ、本当に何も知らないんだな!?この学園のことを」
「だから、そう言ってるだろ?」
「なら、親切心で教えてやるよ!!この地下では、地上の法律は適用されない。力があり、能力点さえあれば、何でも許されるんだ!!」
柏原は高らかに、何故か勝負もしていないのに勝ち誇ったように言ってくきた。俺は一瞬目を見開いたが、すぐにニヤリと笑って目付きが変わり、彼を見る。
「力さえあれば、何をしても許される…。良いねぇ、そうでなくっちゃ…!!」
満面の笑みをして、柏原に近づく。
何も感じさせず、敵意も何も発することもせず。
目の前まで迫れば、そのままノーモーションで手を前に出して首を掴む。
柏原は麗音を離して両手で俺の手を掴み、涙を流しながら咳き込む。
「ぐへぇ!!…うぅ…げほっげほっ!!…て、てめぇ…!!げほっ…ふぅぅ…だにしやがる!!」
「力があれば、何をしても許されるんだろ?悔しかったら、やり返してこいよ」
少し悪い笑みをすれば、柏原は血の気が引いたような表情になった。もしかして、イメージしたのかもしれない。
俺に殺されるというイメージを。
手を離してやれば、足が崩れて地面に尻もちをつく。
「お、おまえ…今度会ったら、覚えておけよ!?」
柏原は、首をおさえながら誰でも言える捨て台詞を言って走って行った。彼の持つ力は、どうやら身体を使うものでは無さそうだ。
こっちも本来の能力を使うまでもないようだしな。
麗音はその場で腰を抜かしていたので、俺は手を差しのべる。
「麗音、大丈夫か?」
「う、うん、ありがとう、椿くん」
手を握って立ち上がると、バランスを崩して俺にもたれかかってきた。すると、顔が近くなるが、俺もそうだが彼女も冷静だった。
そして、離れればニコッと笑ってきた。
「椿くんって凄いんだね?私、恐くて動けなかった」
「凄いかどうかはわからないけど、ああいう
「だ、大丈夫だよ!平気平気。あっ、もうこんな時間なんだ。もう寮に戻らないと!」
強がっているように見えたけど、本人が大丈夫と言っているのなら深くは追及しない。
スマホを見ている麗音につられて、俺もスマホを見れば、そこに奇妙な通知メールが来ていた。
ーーー
貴方は武力を行使し、同じクラスメイトを救済しました。
それを評価し、能力点+6点と現金2万を差し上げます。
ご自由にお使いください。
P.S
殺せたら、能力点も現金も100倍だったのにね。
ーーー
今更気づいたが、探せばどこもかしこも監視カメラが付いていた。
リアルタイムの評価をされた。放課後になろうと、気は抜けないな。
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