底辺からのプロローグ
プロローグ 道
あれは何時のことだったか。
確か14歳の時、季節は春。
満月の夜に、桜の花が満開に咲いている故郷の山の中を、藍色の髪をポニーテールにしている女と、長いストレートの茶髪をした女っぽい男が歩いていた時のことだ。
あっ、ちなみに女っぽいのが俺。
いつもはでかい声で小言がうるさい短気な女が、珍しく静かに話しかけてきた。
「なぁ……おまえ、オレが死んだら悲しんでくれるか?」
唐突にこんな質問をされたら、普通の人なら冗談めかして『全く、清々する』とか『別に。今死んでもらっても良いんだけど』とか言うのだろうか。
俺は考えるまでもなく、横目でチラッと女の顔を見てこう返した。
「あんたが死んだら、悲しむまでもなく俺も死ぬに決まってるだろ」
そう言うと、女はバシッと俺の頭を強く叩いてきた。
「バーカっ。真面目な顔で気持ち悪いことを言ってんじゃねぇよ。もしも後追い自殺なんてしやがったら、地獄で1000回殺してやるからな」
こいつ、亡者が地獄で人を殺せると思ってるのかよ。
天国とか地獄とかの概念を前提にしている時点でナンセンスだと思うのは俺だけだろうか。
「前から言ってるだろ?そういうのは重みにしかならねぇんだって。オレはおまえの人生を背負うつもりは全くねぇし、背負えると思うほど
「背負ってほしいなんて思ってない。……俺はあんたに……姉さんに全てを捧げても良いと思って――—っ!?」
言葉の途中で、姉さんは俺の頬に勢いよく平手打ちをした。
乾いた甲高い音が響く。
「ふざけんな。オレは関係ない、おまえはおまえのための人生を生きるんだ」
姉さんは両肩に手を置き、視線を合わせる。
「良いか?俺はおまえが生きるための道を示したに過ぎない。そこから先、目標を持ち、自身の居場所を見つけるのはおまえなんだよ……
厳しい言葉を浴びせられているが、心に響いてこない。
俺にとっては姉さんが全てで生きる理由。
姉さんの居ない世界なんて、考えられなかったから。
そう……だから、あの時は信じられなかったんだ。
あの雨の日に聞かされた事実。
姉さんが死んだという現実。
そして、その後に知ることになる何者かに殺されたという真実。
惨劇の舞台、私立才王学園。
都心から離れている人気のない巨大な敷地を利用して作られた、外部とは隔絶された全寮制の学園である。
子どもの才能を開花させ、優秀な人材を育成する日本で屈指の有名校。
入学難易度は日本の入試制度にしては簡易なものだが、卒業できるものはその年の3年全体の1割を切る。
卒業生には政治家、プロのデザイナーや外交官などが存在し、スポーツ界でもトップの成績を残した選手を排出しており、志望した大学への進学率はほぼ100%。
誇張して言えば、卒業できれば現実のどんな願いも叶うってことだ。
しかし、外部にはこういう最低限の情報しかなく、内部事情は謎に包まれ、外の世界とは隔絶された学園でもある。
そこに俺、椿円華は2年後に春に転入することになる。
目的は決まっている。
姉さんを殺した犯人に『復讐』するためだ。
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