カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~

カナト

願う、未来の君へ

 この世界は理不尽だ。


 力が無い者は、力を持つ者に搾取さくしゅされる。


 しかし、力が在りすぎるのも考えものだ。


 力が在るがゆえに、偏った思想におちいってしまう。


 力が在るがゆえに、傷つけたくもない人を傷つけてしまう。


 力が在るがゆえに、孤独になる。


 俺は、それを身をもって思い知った。


 そして、今、『力』を持ったがゆえに、大切なものを奪われそうになっている。


 燃えている森の中、氷の刃の十字剣を手に持ち、目の前に居る乱れた頭で身体中に包帯を巻いている男と向かい合う。


 その男は、右手に異様に刺々しい刃の大剣を持ち、左腕で1人の赤子を抱いている。


「狩原、どうして……どうしてこんなことをしたんだ!?俺たちが殺し合う必要はないはずだろ!?」


「わかってるだろ?最上。俺がここに立っているということが、何を表しているのかを。何も終わってねぇんだよ。俺たちの戦いはな」


 男は大剣の刃を俺に向け、鋭い目で殺意を向ける。


「俺と戦え、最上高太。じゃねぇと、おまえの大切な者が俺の手で壊されることになるぜ?」


 もう避けられない。


 ここで決意しなければ、奪われる。


 俺の大切なものが、愛する人と築きあげてきた幸せと、その『証』が。


 十字剣を持つ右手に力を入れれば、両手で構える。


「その子を離せ。俺と優理花の子だ」


「自分の子どもが大事なら、力づくで奪って見ろ‼」


 男は赤子を上に放り投げ、大剣を上から振るおうとする。


 その瞬間、左目に意識を集中し、自身の力を解放した。そして、一瞬で距離を詰めれば、すぐに赤子を抱きしめ、男に背を向ける。


 大剣は背中を斜めに斬り、激痛が走る。その衝撃で吐血とけつしてしまい、それが子供の顔にかかってしまう。


 すると、子がオギャーっと泣き出してしまった。


「ガキを守るために、自分を犠牲にする。おまえのそう言うところは、昔から気に入らなかった。だが、認めていたんだぜ?確かにおまえは強者だ。英雄と呼ばれるに相応しいほどのな」


 子を抱えたまま下がり、十字剣を男に向けて牽制けんせいする。


 そして、左手で自分の子を泣き止ませようと抱きしめる。


「狩原……。俺は別に、弱い人を守るヒーローじゃないし、そんなものになれると思うほど自惚うぬぼれちゃいない」


 子どもを強く抱きしめ、今自身の手の中にある命を感じとる。


「ただ、俺のそばに居てくれる、大切な人や愛する女、そして……こんな俺を父親に選んでくれたこの子を、守りたいだけだ…!!」


「だったら、この俺から守り通して見せろ‼」


 男は怒鳴り声をあげながら近づき、両目の瞳を紅に染め、大剣を振るってくる。


 それを十字剣で防いで距離を取り、自分の子供を地面に置く。


「ごめんな……ーーー。お父さん、すぐに戻ってくるから……少しだけ、そこで待っていてくれ。必ず、君を守ってみせる!!」


 今度は、俺から男に向かっていく。


 氷の刃と、鉄の刃がぶつかり合う。


 この戦いが終わったら、幸せな未来が待っているのかはわからない。だけど、俺はこの子が生まれてから、ずっと願っていることがある。


 たくさんの人に、愛されなくても良い。


 たくさんの人を、愛さなくても良い。


 ただ、これから始まったばかりの人生を生きていく君に、親として俺は願う。


 どうか父さんのように、心の底から信頼できる仲間と、心の底から愛することができる人を見つけてほしい。


 それが、どんな『力』よりも、君に大きな力をくれるはずだから。

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