第1話-2-
一見するとただの黒い霧、もしくは
〈瘴気〉に包まれた無機物は急速に劣化し、生物ならば一息吸い込んだ瞬間から、細胞壊死を引き起こす史上最悪の毒物。
もっとも、毒というカテゴリーに分類できるかどうか、吾輩にも断言できない。
無機物、有機物に関わらず作用する驚異の物質であることに間違いはないが、それを垂れ流す〈シング〉という一生物の詳細すら判明していないのだ。
いわんや〈瘴気〉もである。
ただ一つ確定していること。
瘴気に触れたものは消滅する。
それは誇張や冗談ではなく、非情な真実に過ぎない。
そう、〈シング〉は、ただ存在するだけで、人間たちが築き上げてきた文化や生活を破壊する。
大地や水、森、空気、自然そのものを犯す。
親友を、恋人を、家族を、隣の誰かを死に至らしめる。
共存、共生などできるはずもなかった。
故に、人間たちは強固な結束を構築した。
二〇〇〇年もそろそろ一世紀を経ようという今時分に、一体誰が、世界の一致団結を予想できたのだろうか。
人間は〈シング〉という共通の大敵を得たことで、初めて古代からの敵と手を結んだのである。
人間社会の融和なくして〈シング〉討伐はあり得ない。
それは、あまねく全ての人類の指標と言っても過言ではなかった。
しかし、融和したからといって〈シング〉に対し優位に立てたわけでは決してない。
当初、人類は〈シング〉の戦闘力に拮抗するどころか、抵抗すら許されぬほど脆弱な存在だった。
〈シング〉に住む家を砕かれ、故郷を
そうして、人間は住まう土地と総数を減らし続けたのである。
醜く恐ろしい化け物〈シング〉と連中の凶器である〈瘴気〉。
その二つに怯える日々――死の恐怖が、世界中の生きとし生ける者を蝕んでいった。
人類は最盛期の総人口と比較してその数を三割まで失い、生きた大地はなおさら減少の一途をたどった。
そんな最中に、一条の光明が差したのは、ある種地球という星そのものが〈シング〉に対して起こした免疫反応だったのかもしれなかった。
人類反抗のきっかけは、南極大陸の冷たい大地で発見されたダイヤモンド原石である。
研磨したそれは、通常のダイヤモンドと同じ輝きと特性を有していながら、明らかにただの宝石とは異なった未知の性質が加わっていた。
触れた人間に呼応して、攻性機能に特化した金属片を無限に産出させる、というものだ。
生み出される金属片の規格は様々で、時に人間を保護する装甲のように、時に大空へと飛び立たせる翼のように、時に敵を撃ち倒す銃のように形作ることもあった。
その力は強大にして無尽蔵、さらには千変万化、変幻自在であることから〈ヴァリアブル・フレーム〉もしくは〈ヴァリアブル・ダイヤ〉と称された。
それだけではない。
採集されたダイヤモンド及び、それらが出現させる金属に、〈瘴気〉の影響を完全に遮断する効果が認められたのだ。
〈ヴァリアブル・フレーム〉で全身を覆った者は、事実上〈シング〉に対抗する唯一無二の存在と言えるのである。
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