第3話

 二年後、オレと笑美子は大阪へ日帰りで遊びに来ていた。笑美子は他の女子が行きたがるような遊園地に興味がない、というか、知らない。テレビも見ていないし、ネットもしないので、知らないところに行きたくなりはしない。映画やゲームを題材にした遊園地を楽しもうにも、その原作自体を知らなければ楽しさが薄い。けれど、ジンベイザメを見たいと言うので、それに応えてから今は港湾で夕日を見ている。手をつないで。肩を抱くのはダメらしい。

「キスしていいかな?」

「……ごめんなさい」

「唇と唇じゃなくて欧米の挨拶でやるような頬へのキスは?」

「…それは………えっと……」

 笑美子が赤くなって迷う。婚前にみだらなことをしてはいけない、という教義があっても、挨拶としてのキスやハグは別、もともとアメリカ発祥の宗派なので日本の文化とは基準が変わるはず。

「…えっと……その……」

 笑美子が戸惑うあまり涙ぐむので言う。

「困らせるつもりは無いんだ。ごめんな」

「…いえ……私こそ…」

「じゃあ、せめて今は、これを許してくれ」

 オレは笑美子の手をとり、前から練習していた騎士が王女にするような手の甲へのキスをしてみた。それは拒否されなかった。

 

 

 四年後、県立大学を卒業見込みで県職員に採用の内定をもらっていたオレは笑美子との結婚式に臨んでいた。大学へ進学せず研究活動をするよう教団からは誘われたけれど、オレの母さんが断固反対ということで、第一志望の大学に入った。嘘はついてない。そして日曜日が休みやすくて有給も取れる公務員になった。他の宗教団体でもいえることだが、活動に熱心なあまり仕事や家計がボロボロになる信徒と、バランスを取る信徒がいる。オレは笑美子と幸せになりたいので、寄付もそこそこで家計重視だ。

「愛してるよ、笑美子」

「はい、私もです、雄治」

 やっと、姉妹だの兄弟だの、気持ち悪い呼び方が夫婦になったのでとれる。

 そして抱ける。

 長かった。

 けれど、人生は長いし、結婚はスタートにすぎない。

 そして、うまくやる自信はある。

 愛は勝つ。

 神にだってな。

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