五神

 その昔、この世界ができる前の話である。

 5体の神がいた。その神は力を合わせ、この世界を想像した。

 しかし世界には、災いや争いが絶えなかった。

 それを変えるために、5体の神はそれぞれ自分の力を宿した球を残した。

 5つの球は人に神の力を授ける。そして、神の力を授かった5人の人間が力を合わせれば、再び新たな世界を創造できる。


 5体の神の名は――

 火の神 天照アマテラス

 水の神 天降アマフラス

 土の神 天裂アマサケル

 木の神 天茂アマシゲル

 金の神 天断アマネダツ


 しかし、この力が悪人の手に渡れば、世界が大変なこととなる。

 そのため、この5つの球は封印されてきたのだった……。


「そんなばかげた話信じられるかよ」


 それが師匠からの説明を聞き終えた、俺の第一声だった。


 あの後、放たれた強烈な光のために、桐箱を開けたことがすぐに師匠にばれた。

 そして永遠に続くのではないかと思われた説教(しかも尚草の合いの手入りだ……)の後に、この説明をされたのである。

 つまり、俺が開けた桐箱の中に、その神の力(笑)が宿った球が封印されていたわけだ。

 ふ~ん。なるほどね。って全然なるほどじゃねえよ!


「仮に本当だったとしても、なんでそんなものを師匠が持ってるんだよ? しかもあんなお粗末な封印じゃ意味ねーだろ」

「元々は龍炎が管理していたんだが、『神々の邂逅かいこう』において神の力がどうしても必要だったんだ。

 あのままじゃ、本当に世界が終っていたからな。結局、世界を創り変えることなく、もう1度封印することにした。

 その後はオレが預かっていたんだ。封印も別の場所で行っていたが、その場所の力が最近急に弱まってしまってな。

 緊急として、あそこに置いておいたんだ」

「おいおい、師匠。じゃあ兄貴や師匠は、神の力を使って戦争してたのかよ?」

「そういうことだ。だからオレも龍炎も、あの時の戦果を語らないと決めているんだよ。自分の戦果じゃないからな」

「なるほどね。道理で兄貴も師匠も戦争については口が堅かったわけか。つまりはもう1度封印すればいいんだよな?」

「…………」

「どうしたんだよ、師匠? 前は封印できたんだろ? もう1度同じことすればいいじゃん」

「前に封印を解いたときは、球が飛び散ったりはしなかった。封印するのは、球を1か所に集めればそれでよかったんだ」

「は?」

「だから、封印を解いた張本人に、飛び散った5つの球を集めに行ってもらう必要がある」

「ドラゴンボールかよ!! あれも神が創った球だったし、集めれば願いは叶うって設定だったじゃん。

 何? 神ってマンネリなことしかできねーの?」

「ドラゴンボールと違うのは、集めても願いを叶えるべきではないということだ。

 世界のあり方なんて、たった5人の人間が決めることではない」

「そうだ、師匠。問題が1つあるぜ。いや、1つどころかいくらでもあるんだけどな。

 俺が見た飛び散った球の数は、4つだったんだよ。5つじゃなかった」

「………………」

「どうした、師匠? 三点リーダが、さっきより2つ増えてるぜ」

「……………………」

「お~い」

「それなら……考えられる可能性は1つ。すでに5つの球のうちの1つが、誰かに神の力を授け終えているということだ。

 おそらく封印が解かれたとき最も近くにいた人間、お前にな」

「…………………………いやいや待てよ! じゃあどうやって封印するんだよ!? その球はもうなくなっちまたんだろ?」

「神の力を授け終えた球は、その人間の体内に入るんだ。と言っても、摘出手術で取り出せるわけじゃない。 

 その人間と同化しているんだ。5つの球がそろえば、自動的に球は体内から出る」

「じゃあ球と同化している5人の人間を、1か所に集めればいいんだな」

「すべての球が人間と同化しているとは限らないが、まあその可能性が高いだろうな。15年前もそうだった」

「15年前?」

「いや、なんでもない。とにかく、できるだけ早く残り4人を見つけることだな」

「どうやって見つけるんだよ?」

「球と同化している人間同士は自然に惹かれあうんだ。神の導きでな。そこら中を歩いていれば、見つけられるだろう」

「そうか。それなら師匠、最後に1番聞きたいことを聞くんだけど」

「なんだ?」


 ここで俺は1度深呼吸し、三点リーダ10つ分の熟考の末、スルーしていたあのことを聞いた。


「神の力って、いったい何ができるんだ?」

「なんとも思慮しりょ浅い質問ですね」


 そのとき、またしても会話の途中だというのに、別の声が割り込んできた。

 今までどこにいたんだ、こいつ?


「新しいおもちゃを買ってもらい、喜んでいる子供のようですよ」

「力を手にしたら、その力について知っておく必要があるだろ? 大いなる力には、大いなる責任が伴うんだぜ」

「分かっていませんね。これだから先輩はだめなんですよ。大いなる力なら、それについて知らない方がいいんですよ。

 知らなければ力を使わない。つまり、持っていないのと同じになるんですから」

「しかし無意識のうちに使ってしまって、力が暴走したらどうするんだよ。

 戦争で使えるってことは、周りに甚大な被害を及ぼす力かもしれねーだろ?」

「そのような力だったら、師匠が言わないわけがないでしょう。少しは頭を破裂させてください」

「死んじまうだろうが!! 大体、少し破裂ってどうやるんだよ!?」

「いいかげんにしろお前ら」


 ここでようやく師匠のストップがかかった。


「お前たち2人の言っていることはある意味で正しく、ある意味で間違っている」

「どういう意味ですか? 師匠はしゃべり方がまどどっこしいんですよ」

「先輩はしゃべり方というか、日本語がおかしいですけどね」


 ちょっとかんだだけでいちいち突っ込んでくるな。本当にうっとうしい奴だ。


「とにかく、神の力は龍水の言うように、使い方によっては周りに甚大な被害を及ぼすものだ。

 そして尚草の言うように、その力は知っていないと使えない。決して無意識下で発動しないものだ。

 だが、この力について、龍水は知っておく必要がある」

「「どうしてですか?」」


 うわ……尚草とハモっちまった。気持ち悪っ!

 つうか、お前は部外者なんだから引っ込んでろよ!

 師匠は俺の方を向いて言った。


「理由は3つある。1つ目の理由は、その力を狙ってくる奴から身を守るためだ。

 『神々の邂逅』を経験してる奴なら、お前を、お前の神の力を利用しようとするだろうからな。

 2つ目の理由は、同族どうぞくとの戦闘で必要になるからだ。

 お前の同族、球と同化している人間の中で、この力を封印することを拒絶する奴もいるかもしれない。

 そして、そいつを力ずくで説得する必要もあるだろう。そのとき力を使えないと、戦えないからな。

 最後に3つ目の理由は、お前が本当に球と同化したのかを確かめるためだ」

「あれ? でもさっき、俺と球が同化しているって言ってたじゃないですか?」

「おそらくだ。確定ではない」


 え~。なんだそれ? ぬか喜びさせやがって!!

 ここで尚草が口を挟んできた。


「先輩の頭がどうかしているのは間違いないですけどね」

「うまいこと言ってんじゃねえよ!!」


 本当にうまいこと言われてしまったので、思わず文句を言い忘れてしまった。


「いいか、話を続けるぞ。尚草、悪いが席をはずしてくれ」

「分かりました」


 相変わらず、すんなりと従う尚草。

 まあ、こいつがいない方が俺も楽だけど。

 少しは俺の言うことも聞けよな……

 尚草が部屋を出てすぐに、師匠は切り出した。


「神の力はとても単純だ。自然物、5体の神がつかさどる火・水・土・木・金のいずれかを、思い通りに操ることができる。

 操る方法も至極単純。ただ単に、心で念じるだけでいい。たとえば火なら、民家の火事を山火事にすることもできる。

 ただし、目に見える範囲でしか、操ることはできないがな。それに、最初は思い通りに操れないこともある」

「確かにびっくりするほど単純だな。そんなもん、誰でもできるじゃん」

「そうだ。だからこそ、元がどんな人間であっても、この力を手にすれば一騎当千の強者になる」

「そうやって聞くと、確かに神の力って感じだな。で、俺はどの自然物を操れるんだ?」

「分からん。それは試してみるしかない。まずは手近なところで水からやってみろ」

「水ね」


 俺たちが今いる部屋からは庭にある池が見える。

 俺は池の水を見据えて心の中であることを念じた。

 その瞬間、池の水が突然飛び出しこちらへ向かってきた。

 そして……ばっしゃーん!!

 池の水は俺の体を全身 くまなくびしょ濡れにした。


「これでお前が球と同化しているのは確実になったな。水の神か」

「確かに……ゲホッゲホッ、最初だとコントロールが難しいみたいだな」

「龍水、今オレに水をかける気だっただろ?」


 師匠はまるで神のように、俺の心中を言い当てた。

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