告白

さくた

呼び出して…



俺はこれから告白する。

相手はもちろん女の子だ。


俺はこの日のために沢山の努力を重ねてきた。


呼び出すための手紙の文章も、昨日寝ないで考えた。

そしていつもより一時間早く登校し、呼び出す人物の下駄箱に放り込んでおいた。


手紙の文章はこうだ。


『伝えたいことがあります。放課後、屋上に来てください。

2年4組 杉野 海斗』


我ながら完璧な文章だと思う。




ガチャリ。


おっと、来たようだ。

うわあ、緊張する。

平常心平常心。


屋上の扉を開けて入って来た美少女は俺を睨み付け、口を開く。


「こんなところに呼び出して何の用かしら、杉野くん」


「なんで俺の名前知ってんの?」


俺はこの人とないはずなんだけど…。


「それはあの時……、こほん。なんでも何も手紙に書いてあったじゃない」


「あっ確かに」


自分で書いたの忘れてた。


「それで、何の用かしら」


美少女—木島きじま 詩乃しのはもう一度聞いてきた。


冷たく睨み付けられると、萎縮しそうになる。

でもそれで挫けるほど俺の気持ちはやわじゃない。


ふうっと息を吐く。

そして木島さんと目を合わせて、


「木島さん…」


「っ」











「ほんっとうに申し訳ございませんでしたあぁぁぁ!!!!」






俺は盛大に懺悔こくはくした。






************


詩乃視点 懺悔こくはく





「うふふ」


「詩乃?」


友達が不思議そうに聞いてくるが、絶賛頭の中お花畑の私の耳には届かない。


そのくらい、私—木島 詩乃は浮かれていた。

何でって?


好きな人から呼び出しを受けたからだ。


「うふ、うふふ」


「なんか気持ち悪いよ」


「だって嬉しいんだもん」


「うわお。いつもクールな詩乃が…」


仕方ないじゃない。


好きな人、というか異性に屋上に呼び出されれば、もう何があるかなんて考えるまでもない。


告白だ。




嬉しい。

すっごく嬉しい。


好きな人—杉野くんは私のヒーローだ。


入学式の日。

体調不良不良で倒れてしまった私を、彼は周りの目を気にせずお姫様抱っこで運んでくれた。


体調不良で朦朧としていたけど、あの時の彼の真剣な表情は今でも覚えている。

とっても格好良かった。


入学式の後、何度か杉野くんに話しかけようとしたけど、目が合うたびに逃げられてしまった。


ところが、今日杉野くんに呼び出された。

下駄箱を開けた時「また手紙がある…」とうんざりしたけど、差出人の名前を見た瞬間飛び上がりそうになった。


当たり前だよね。好きな人からだったんだもん。



というわけで、現在へと至る。


「あ、そろそろ時間だ。行かなきゃ」


「詩乃! 素直にね。頑張って」


「うん!」


スキップしそうになる足をどうにか抑えて、私は屋上へと向かった。


扉を開けて外に出る。


杉野くんはフェンスにもたれ、こちらを向いていた。


「こんなところに呼び出して何の用かしら、杉野くん」


「何で俺の名前知ってんの?」


何でって…あなたの名前はあの時から知ってたし。


「それはあの時……こほん。なんでも何も手紙に書いてあったじゃない」


なんで素直に言えないんだろう。

入学式の時から知ってたって。たったそれだけのことなのに。


「確かに」


杉野くんは本当に忘れていたようだった。

ハッとした顔が可愛い…ってそうじゃなくて、


「それで、何の用かしら」


もう一度聞く。


なんか緊張してきた。

心臓がバクバクうるさい。


「木島さん」


「っ」


彼が目を合わせてきた。


そして口を開き、






「ほんっとうに申し訳ございませんでしたあぁぁぁ!!!!」






「私も…ふぇ?」


一瞬、何を言われたかわからなかった。

モウシワケゴザイマセンデシタ?

好きです、じゃなくて?


「な、何が?」


杉野くんは神妙な顔つきをして言う。


「入学式の時、勝手にお姫様抱っこで運んじゃって。迷惑してただろうなって思って」


そこで彼はもう一度頭を下げた。


「今まで言えなくてごめん」


杉野くんは頭を下げたまま動かない。



そんな彼に、私は優しく声をかけた。


「顔を上げて、杉野くん。

私は別に迷惑だなんて思ってない。むしろ嬉しかった」


あの時のことを思い出しながら、言う。


「あんな風に助けてくれる人がいるんだって。下心なしで助けてくれる人がいるんだって。

それから、あなたを見ているうちに、好きになった」


「へっ?」


杉野くんは目を白黒させている。

顔が熱い。

でも、ここでへこたれちゃだめだ。ちゃんと私の気持ちを伝えなきゃ。


「杉野くん」


「は、はい」


ふふ。さっきとは逆ね。


「好きです。

助けてくれた時からずっと好きでした。

私と付き合ってください」


やっと言えた…!


「き、木島さんは俺でいいの?」


「そう、あなたがいいの」


杉野くんは少し考えるそぶりを見せた後、口を開いた。


「お、俺でよければよろしく」


「っ。ありがとう!」


嬉しさのあまり、私は彼に抱きついてしまった。


「うわっ!正木さん!?」


「詩乃よ。これからは名前で呼んでね、海斗くん!」


「わ、わかったよ。し、し、詩乃」


海斗くんは顔を赤くしながらも、名前で呼んでくれた。

可愛いなぁ。もう。



「そういえば、なんで今日だったの? もう入学式から二ヶ月経ってるのに」


そう。今は六月だ。

今まで言うタイミングいくらでもあったはず。

聞くと、彼は頬をかきながら教えてくれた。


「ああ、それは…。

一つは恥ずかしいことに、俺の決心がつかなくて、なかなか踏み切れなかったこと。

もう一つは…」


「もう一つは?」


「し、詩乃に話しかけようとしたんだけど、目が合うたびに睨み付けられてさ。俺もしかしたらめっちゃ嫌われてんじゃないかって思って。話しかけても無視されるんじゃないかって思って」


原因は、私だった。


「ち、違うの!あれは、えっと、その、とにかく違うの!」


言えない。

あなたの顔を見つめ過ぎるあまり、目に力が入ってしまったなんて。







#############







【告白】


秘密にしていたことや心の中で思っていたことを、ありのまま打ち明けること。



            goo辞書より






告白と言えば、愛の告白を思い浮かべることが多いだろう。

だがひとえに告白と言っても、それが愛を伝えるものだとは限らない。


愛にせよ罪にせよ真実にせよ、人は少なくとも人生で一回は告白をしなければならない時がくる。


果たして、それが自分にとって良いものであるか。それとも悪いものであるか。

そしてそれによって何がどうなるか。

それは告白をしてみなければ分からないのである。


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告白 さくた @sakuta426

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