第110話
強力なJDであるジャスパーを仲間にするためにトキヤはジャスパーのパートナーである少女、イオンに仲間にならないかと声を掛けたが、それは厳しいとあっさり断られてしまった。
しかし、そのイオンの断り方に強い拒絶を感じなかったトキヤはまだ可能性があると考え、イオンに何故仲間になれないのかと理由を尋ねてみたところ、自分は
航空機の中で気持ちよさそうに熟睡し、散歩中に見つけた珍しい生物に興味を持ち、フードコートで食べたおにぎりの美味しさに感動する。それがトキヤが今日目にしたイオン・キケロという少女である。
そんな
そして、迷いのない青く透き通った瞳に見つめられたトキヤは、今のイオンの表情はあの時のイオンの表情と同じだと感じた。
トキヤは反政府軍のトップ、カムラユイセとの会談の場で、イオンに噛み付かれたことがある。
初めて会う男の手に躊躇なく噛み付き、その手の皮膚が裂け、血が出てきても噛み続けたイオンの行動は、流石に普通とは言い難かった。
イオンに手を噛み付かれた後トキヤは、イオンはジャスパーの身体を破壊した集団のリーダーである自分を見つけて頭に血が上っていたのだろうと推測し、それ以上のことは考えなかったが、もし、冷静な頭であの過激な行いをしたというのなら、確かにイオンの中には普通ではない部分があるのかもしれないと思った。
そして、イオンのその部分を理解した上で、もう一度誘えば、イオンとジャスパーが仲間になってくれるかもしれないと考えたトキヤは、ショッピングモールで遊ぼうというイオンの誘いに乗ることにしたのだ。
それがどんな遊びなのか、深く考えることもせずに――――
――――フードコートを出たトキヤ達はまずAR等を使わず実際に服を試着できるアパレルの店舗に入った。そこであまり服に興味がないことをアイリスがイオンにカミングアウトすると、そんなに可愛いのに勿体ないとイオンは自分が選んだ服を何着もアイリスに試着させ、その後は逆にアイリスがイオンの服を選んだりし、二人はその店で楽しげに着せ合いっこをした。そんな二人の姿は仲の良い姉妹にしか見えず、二人をじっと見ていたジャスパーが『自分はこの瞬間を見届けるために存在していたのかも知れない……』と大真面目な顔で呟き、その発言をちゃかすと冗談抜きで血の雨が降りそうな雰囲気だったので、トキヤとバルはジャスパーの言葉にうんうんと頷いておいた。
その次はゲームコーナーに行き、仮想空間内で身体能力を戦闘用JDと同等にするJDVSという2on2のバトルゲームをし、トキヤはバルとタッグを組んだが、バルの足を引っ張りまくり、イオンとアイリスのコンビにボコボコにされ、その後、特殊ルールのボスバトルでボスになったジャスパーに全員で挑んでボコボコにされた。
それからアクセサリーショップでイオンとアイリスがお揃いのペンダントを買うという話になり、トキヤ達が店の前で待っていると、買うペンダントを決めたイオンがトキヤに、こういうアクセサリーは気に入った男性からプレゼントして貰いたいというお願いをし、そのペンダントがたいした金額ではなかったので、トキヤは特に気にすることもなくそのペンダントを買って二人にプレゼントした。その後、『我がパートナーがその気になったらちゃんと責任を取るんだぞ』と、ジャスパーに声を掛けられたとき、トキヤは自分は何か軽率なことをしてしまったのではないかと不安になった。
アクセサリーショップを出た後、玩具販売コーナーの前を通りかかり、自分のJDの 1/12のプラモデルを作り、自由にカスタマイズしよう! という看板を見つけたイオンが、これ面白そうと言い出し、ジャスパーの3Dデータを取ったりした。
ジャスパーのプラモデルができるまで少し時間が掛かるとのことだったので、待ち時間を有効に使うために食料品コーナーを見学しに行き、トキヤがせっかくの日本なのだからと海外に出てから好きになった好物のフルーツ牛乳を探すも見つからず、店員に尋ねると、フルーツ牛乳は海外の一部の国では人気だが、国内では人気がないため普通の店では販売されていないという衝撃の事実が判明しトキヤが一人落ち込んでいるとアイリスとイオンがトキヤを慰めた。
「……」
そして、最後に入った輸入雑貨店で偶然見つけた紙パックのフルーツ牛乳を購入したトキヤはそれを飲みながら。
……何で普通に遊んでいるんだ俺たち。
このショッピングモールで普通に過ごしているこの時間は何なんだと首を傾げた。
トキヤはイオンが最初に言っていた遊びというのは建前のようなもので、自分が普通ではないことを教えるために施設内にある何かを利用するのではないかと考えていたのだが、この二時間、トキヤ達はショッピングモールを普通にエンジョイしただけだった。
「……」
そして、もしかして自分は
「……これは想定外」
二時間もいたのに何も起きなかった……、と愕然としているイオンの姿があった。
「……噂には聞いていたけど、この国は、本当に平和。こんなに人が集まる施設で何も起きないとは思わなかった……。……見て貰うのが一番わかりやすいと思ったけど、こうなったら口でお兄さんに……あ、けど、そうなると……」
そして、そのイオンの呟きからこの状況がイオンの想定と違うということを理解したトキヤはイオンに話しかけようとしたが。
「――――ジャスパー」
トキヤが声を出す前にイオンがジャスパーの名を呼ぶと、少し離れた場所でアイリスと話していたジャスパーがすぐにイオンに近づき、イオンと会話を始めた。
「どうした、我がパートナー。その呼び方からすると、自分に何か頼み事か?」
「うん、そう。ジャスパー、さっき、注文した商品を取ってきてくれる?」
「む? あの品物が出来上がると言われた時間まで、まだ十分以上あるはずだが……」
「うん、わかってる。けど、お店の前で出来上がるのを待ってて欲しい」
「……ふむ、そうか」
そして、イオンに商品が出来上がるまでその店の前で待っていて欲しいと頼まれたジャスパーは、一瞬だけ不思議そうな顔をしたが、すぐにイオンのお願いの意図を読み取り、力強く頷いた。
それからジャスパーは、自分は十五分ぐらいで戻ってくるぞーと大声で言ってから店に向かって一人で歩き出し、そのジャスパーの行動に驚いたバルがイオンに視線を向けた。
「……あのネイティブ、割とあっさり貴方から離れるんですね。敵の集団の中に大事な人を残すなんて、うちのシオンだったら絶対に拒絶してますよ」
「ジャスパーは大事なことをちゃんとわかってるから。あの銀髪のJDは、まだちょっと幼いのかも」
「……人間の子供に幼いと思われてると知ったら、シオン、地味にショック受けそうですねー……」
まあ、それはともかく。と、言葉を句切ったバルはイオンと視線を合わせ。
「それでイオンさん。――――バルとアイリスも少し離れた方がいいですか?」
イオンがトキヤと重要な話をするためにジャスパーをこの場から離れさせたことに気づいていたバルは、自分達もいなくなったほうがいいかとイオンに尋ねた。
「流石に技術屋さんを残してあのネイティブほど離れることはできませんがバルの聴力を人間並みにして、会話が聞こえないぐらいの距離まで離れるぐらいはしてもいいですけど……、どうします?」
「ううん、ここにいていいよ。これからしようと思ってる会話を聞かせられないのは、ジャスパーだけだから」
「……そうなんですか? それなら遠慮なくここにいさせて貰いますよ」
「うん。アイリスと一緒に聞いてて」
そして、バルとの会話を終えたイオンは。
「――――お兄さん。わたしのことを知ってもらうために一緒に遊んだけど、この国が平和すぎて見てもらうのはちょっと難しそうだから、口で説明するね」
迷いのない青く透き通った瞳をトキヤに向け。
「わたし、イオン・キケロは――――理不尽を許せないの」
行き過ぎた
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