第48話
――――今日の補給物資は何か、おかしかった。
補給物資は普通、輸送用ドローンや大型トラックなどで基地に直接運ばれてくるが、今日はどういうわけか基地から少し離れた場所に物資を置くから取りに来て欲しいという連絡が来ていた。
その事を疑問に思ったトキヤはすぐに首都にいる
すると、その担当者は困ったような表情を浮かべながら、あれをいきなり基地に送ったら人間はもちろんJDですら警戒してしまう故の対応で、そちらにいるレタに取りに行かせれば丸く収まると言い出した。
レタはトキヤの同僚ではあるが国家にとってその重要度はトキヤとは比較にならないほどに高く、敵前線基地を制圧後、レタは軍の幹部達や首都の兵器開発メンバーと連絡を取り、殆ど睡眠も取らずに作業に没頭していることを知っていたトキヤはレタの負担を少しでも軽くするために自分が物資を取りに行くとその担当者に言った。
しかし、その通信を近くで聞いていたアイリスが行きたいと言い出し、騒ぎを聞きつけたサンが自分も行くと叫び、元々護衛に付いてくる気満々だったシオンと合わせて四人で揉めに揉め。
その結果、物資受け取りの任務はサンとアイリスの二人が担当することになった。
物資の中身については通信を傍受される可能性があるから語れないの一点張りではあったが、結局のところ、これはただの物資の受け取りであり、その荷物が危険物ではないということは再三確認していたし、その受け取り場所も本当に基地のすぐ近くで、敵と遭遇する可能性も皆無であったため、四人で行く必要はないとトキヤは判断したのだ。
そして、トキヤはアイリスが操縦する鋼の獅子と、鋼の獅子に取り付けた空のコンテナの上に乗って子供のようにはしゃぐサンが基地から出て行く姿を見送ってから、地下通路の状態を確認するためにジャスパーと戦闘を行った巨大な倉庫へと向かったのだが……。
「……!」
判断が甘かった。と、トキヤはサンの助けてという叫びを思い返しながら唇を噛んだ。
今、この国は戦争をしているのだ。例え安全圏であったとしても、何が起きてもおかしくはない。
「――――!」
そして、トキヤはサンとアイリスの無事を祈りながら、戦場になっている可能性もある場所に自分を連れて行くことを渋るシオンに無理矢理自分を抱えさせ、砂上を風のように移動しながら、サンと連絡を取り続け。
「――――」
暫くして、叫ぶようにサンと話していたトキヤの語気が弱まり。
「……」
それから、トキヤとシオンは互いの顔を見合わせ。
「……」
凄まじい速度で砂漠を駆けていたシオンの足が止まり、抱きかかえていたトキヤをおろした。
「……」
そして、二人が普通に歩き始めたタイミングで、基地を出る際にフル装備で自分を追ってくるようにという指示を出していたトキヤをサポートする整備補助機、オールキットがトキヤ達に追いつき、前よりもパーツを増やしたフル装備であるが故にかなり大きくなっていたオールキットのボディの適当な場所にトキヤとシオンは腰掛け、砂上を往くボートと化したオールキットはゆっくりと前へと進み。
「あー、トキヤ達も面白そうなのに乗ってるー!」
そのトキヤ達の、のんびりとした姿を金髪碧眼の少女が捉えたのであった。
「あ、もしかして、これ、いつもトキヤを手伝ってる整備補助機? あはは、すっごーい。トキヤって、おっきくするの好きだよねー」
「……必要な物を積んだりしてたら、自然と大きくなっただけだ。別に俺は大きなものが……まあ、嫌いではないが」
たぶん、レタさんの方が俺の何倍も大きい機体が好きだと思う。と、トキヤは前にレタが大昔のロボットアニメを見ていたことを思い出しながら、オールキットの肩から降り。
「それで、サン。なんというか、凄く元気そうだな」
三馬鹿の一人である、サンと向き合った。
「……? うん! すごく元気だよ!」
そして、トキヤの呆れたような物言いを真っ直ぐに受け止めたサンは、自分の元気さをトキヤにアピールするために身体を激しく動かした。
サンは、シオンのように見た目だけでは人かJDかの判別がつかない
「……」
そんなサンの球体関節や身体の動きを技師の視点からしっかり見て、何一つ異常がないことを確認したトキヤは、安堵の息を吐きながらも、少し厳しめな口調を崩さずに言葉を続けた。
「ああ、実に元気でそうでよかった。……ちなみにバルがどこかに隠れてたりはしないよな?」
「バル? いないよー。
「……バルが自主訓練? 何だ、明日は雪でも降るのか?」
「え、雪が降るの!?」
と、珍しいことに対する例えを真に受けて目を輝かせるサンを見て、トキヤは苦笑し。
「……」
バルの訓練の話題が出たことで、シオンの表情が僅かに曇った瞬間を見逃した。
「まあ、何にしても三馬鹿の頭脳担当からの入れ知恵は無しか。……となると、やっぱり天然か。……バルのように悪戯心があったり、カロンみたく隠すよりはマシなんだが……俺の心臓が持たん」
「え。……トキヤ、具合悪いの? 大丈夫?」
「……大丈夫だ。……なあ、サン。さっきの通信で、助けて! って叫んだのは何でだ?」
「困ったから!」
「……うん。そうか、そうだよな」
「うん。そうだよ、そうだよ」
そういって屈託なく笑うサンを前に、トキヤはうまく言葉が紡げなくなっていた。
……バルだったら遠慮なく、カロンだったら真剣に説教をするんだが……。
サンを怒ることは、アイリスを怒ることよりも難しい……。と、相手が無垢であればあるほどに、トキヤはどう怒るべきかを考え込み、そして結局、最適解を見出せず。
「シオン、後は頼んだ。……軽めにな」
トキヤは自分の隣に立つシオンにサンへのお説教を任せるのであった。
「――――わかりました。サン。少し話があります」
え、なになに? と、無邪気にシオンに近づいていくサンを見ながらトキヤは、今後はちょっとしたことでまるで生死が関わっているかのような全力の叫びはあげないで欲しいが……、まあ、サンだし、難しいだろうな……。というようなことを思いながら、一人歩き出し。
「……」
砂漠を約三十メートルほど歩いたところで。
「ううー、ごめんね、トキヤくん」
わたし、何かやっちゃったみたいー。と、言って頭を抱えてうずくまる赤髪の少女をトキヤは視界に捉えた。
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