第22話
――――基地を脱出する。そう決めたトキヤは、それからすぐにレタと話し合い、軍が緊急時に避難所として用意している、この基地に所属している者しか知らない小型施設へと逃げることを決めた。
そして、その小型施設へ行くための移動手段としてトキヤ達は目立つ軍用の大型トラックなどではなく、小さく、それでいて無茶ができる自動車で向かうと決め、広場に駐めてあるレタの
幸いにもその広場は基地の裏側にあり、移動中に基地の正面に迫ってきている敵の大部隊と接触する可能性は極めて低かったが、既に基地内に侵入している少数の敵JDと遭遇する可能性は十分にあったため、三人は最大限の注意を払いながら、広場に向けて足を進めていた。
「……」
そんな中、トキヤは十メートルほど前を進むアイリスの後ろ姿から、少しの間、目を離し、自分のデバイスに視線を向けた。
……やはり、駄目か。基地内部にいる敵JDの情報が更新されない。
主戦場にいた敵の大部隊は味方のサポート担当のJDがばらまいていた超小型の発信器を身体に貼り付けているため現在も位置情報が更新されているが、発信器のついていない基地内部に侵入した敵の位置は全くわからず、トキヤは小さく溜息を吐いてから、視線を前方のアイリスに向けた。
「……」
トキヤは最初、アイリスに一番前を歩かせ、斥候めいたことをさせることを感情的になって反対しそうになった。
だが、よくよく考えれば、自分が先頭に立ち敵と遭遇した場合、まともに対応もできず敵の攻撃により、即死。すればまだいいが、中途半端に負傷したらアイリスの足を引っ張り余計に危機的な状況になってしまうだろうとトキヤは感情を理屈で押し潰し、三人の中で一番運動能力に優れ、JDとの戦いにも慣れているアイリスに前方の警戒を任せることにしたのだ。
……オールキットに戦闘能力があれば良かったんだがな。
まあ、無い物ねだりをしても仕方ないと、自分の後をついてくる自走する整備補助機にトキヤが視線を一瞬だけ向けたとき。
「はい、これ」
隣を歩くレタがお茶を渡すような気楽さで何かを渡そうとしてきたので、トキヤは、あ、どうも、と、碌に確認もせずにそれを受け取り。
「って、重……、レタさん、これは……」
トキヤは受け取ってから、それが銃器であることに気付き、少しだけ困惑した。
「さっき通路で倒れてた子から、拝借してきたの。もう電子セキュリティ解除してあるから、いつでも撃てるわよ」
「……正直、当てる自信がないので持つべきか悩んでいたんですが、やっぱり、持っていた方が良いんでしょうか」
「そりゃあ、無いよりも有った方が良いに決まってるでしょ」
そういって、自分に渡した銃よりもかなり大型の銃を肩に担ぐレタを見て、トキヤはその姿がとても様になっているな、と思った。
「あの、もしかしてレタさんはJDとの戦闘経験があるんですか?」
「んーん、JDと撃ち合ったことはないわよ」
「ははっ、レタさん。その言い方だと人間とはやり合ったことがあるみたいに聞こえますよ?」
「……」
「え」
その無言を肯定と受け取ったトキヤが、あるんですか? と、レタに質問しようとしたとき。
「――――」
前を歩いていたアイリスがピタリと足を止め、相談があるというハンドサインを送ってきたため、トキヤとレタは頷き合ってから、アイリスとの距離を詰めた。
「……アイリス、どうした」
「えっとね、ちょっと思ったんだけどね、このまま予定通り、通路に沿って行くのもいいんだけど、ここから外に出て走って広場を目指すと、掛かる時間が半分以下になると思うんだよね。ただ遮蔽物が殆ど無いから、見つかった場合、危険度が跳ね上がっちゃうけど」
どっちがいいかな? と、アイリスに聞かれたトキヤがチラリとレタに視線を向けると。
「羽野君に任せた」
と、有無を言わさず丸投げされたので、トキヤは通路を進んだ場合と外に出た場合のメリット、デメリットを天秤に掛けて。
「……外に出よう。敵の大部隊がもう基地に入ってきているし、これからイレギュラーが発生する可能性も十分にあるから、時間の余裕が欲しい」
トキヤは、外に出て広場を目指すという選択を取った。
「うん、それじゃあ……、トキヤくん、レタさん、あのね、ここから見える範囲に敵のJDの姿は無いから、外に出たら広場まで一気に走り抜けるのが一番安全だと思うの。だから、二人はひたすらに全速力で走って。敵の確認、対処は全部、わたしがするから」
「……わかった」
アイリスに全てを任せることにトキヤは抵抗感を抱いたが、それと同時にそうするのが最善であるとも考え、頷いた。そして、レタも頷いたため、アイリスは銃を構え直し、外の景色を見据えた。
「じゃあ、3、2、1、の合図で、広場まで一気に走るよ。二人とも準備は良い? ……3、2、1」
ゴー! という叫び声と共にアイリスが飛び出し、それにトキヤ達が続いた。
「……!」
全速力で走るという普段はしない行為にトキヤの身体が悲鳴を上げたが、そんなことを言っている余裕のある場面ではないとトキヤは気合いで身体の悲鳴を黙らせた。
そして、トキヤは走りながら、アイリスとレタの背中以外何もない前方を見据え。
……これなら。
いけるか、と、トキヤは思った。敵のJDの姿はどこにも見当たらず、車が駐めてある広場も視界に入ってきたため、取り敢えず、基地からの脱出は成功した。
そう思ったのだ。
何もない大地に、丸い影が落ちていることに気がつくまでは。
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