第19話

「ねえ、トキヤくん。その敵の数ってそんなに凄いことなの?」

「あ、ああ……。大半は人格がなく戦闘能力も低いダーティネイキッドなんだろうが、1000という数はこの周辺の敵の全戦力と見て間違いないだろう。……それをこの基地のJD部隊に真正面からぶつけてきた。……敵は今までの戦闘結果から、この基地のJDの優秀さを痛いほどわかっているだろうに」

「……なんというか、羽野君の祖国が大昔に得意としてた戦術みたいね」

 そのレタの溜息交じりの発言に、ええ、と相槌を打ってからトキヤは思考に沈んだ。

「……」

 ……物量で押す。といえば聞こえは良いが、これは蟻の大群が象に立ち向かうようなものだ。レタさんの言うように特攻に等しい。こんな作戦とも言えないような攻撃方法を敵の戦術特化JDが考えたのか? ……信じられん。

「……悪いが、戦況のリアルタイムデータを見せてくれないか?」

 そしてトキヤは敵のあまりにも幼稚な戦術を不気味に感じ、もしかしたら人間なんかでは思いつかない起死回生の一手が仕込まれているのかもしれないと考え、リーダー格のJDに戦場のデータ提供を要請すると、リーダー格のJDは軽く頷いてからすぐにトキヤの持つデバイスでJD達の現状を確認できるようにしてくれた。

「……」

 それからトキヤは一分ほど戦術なんて全くわからない技術屋脳をフル回転させながら、戦況が描かれているデバイスと睨めっこをしたが。

「……駄目だ。うちのJD達があまりにも強く、最高に圧倒的であること以外、何もわからん」

 それの何がいけないの? と、アイリスにさえ突っ込まれるような発言をするだけに終わった。

「んー、敵を示すマーカーが、かなりのハイペースで消えていってるわね。この調子なら後、一時間も掛からずに戦闘が終わるんじゃない?」

 そして、戦況が示されているトキヤのデバイスを横から見ていたレタがこの戦闘の終結までの時間を予想した発言をすると、リーダー格のJDが小さく頷いた。

「ストレッタ氏の仰るとおり、戦術特化JDも後、五十二分前後で戦闘が完全に終了すると予測しています。ただ、こちらの被害予想が未知数のまま更新されていないので人間の貴方方も戦闘終了まで警戒を解くことがないようにお願いします」

「……被害予想が未知数? それはどうして? 羽野君の言う通り、この基地のJD達が数だけの敵に後れを取るとは思えないんだけど。本隊を率いてるワスプちゃんなんて、三秒に一体のペースで敵を倒してるような気がするし」

「これもまたストレッタ氏の仰るとおりです。今回の敵軍は、数だけは本当に多いのです。そのため、どうしても取りこぼしが出てきます。そして、その結果、我々は既に四回、この基地内部に敵部隊の侵入を許しています」

「え」

「とはいっても、その四回とも敵の侵入から二分以内には殲滅しているので、現時点では基地に被害はありません。けれども、重要性の高いシェルターや指揮室、武器倉庫などに防衛戦力を集中させているため、敵の侵入経路次第では優先度の低い基地施設に損害が出てしまう可能性があるのです」

「……あー、人間やJDにではなく、この基地にどのくらいの被害が出るかが未知数ってことね」

 びっくりしたー。と、レタが胸を撫で下ろしている横でトキヤはデバイスを操作し、主戦場から離れた基地内部の情報に目を通し始めた。

 ……今も、二カ所から侵入されているな。侵入場所はここから遠いし、敵の数も少ないようだから基地内のJDがすぐに処理してくれるだろう。

 まあ、戦闘が完全に終わるまでシェルターを出るべきじゃないな。と、トキヤは当たり前のことを再確認してから。

 ……シオンと三馬鹿はどこで戦っているんだろうか。

 トキヤは遊撃隊として戦っている筈のシオンとサン、バル、カロンの現状を知りたくなり、デバイスで四人の居場所を探し。

「……?」

 トキヤはその探索結果を目にして、首を大きく傾げた。

 シオンたち四人は全員同じ場所にいた。それは何の問題もなかった。

 だが、四人のいる場所がおかしいとトキヤは思った。

 その場所は戦闘が一切行われていない、基地の東端。そこからシオンたちは一歩も動かないのだ。

 トキヤは最初、四人のうちの誰かが負傷し、一時的に退避したのかとも思ったが、デバイスに表示されている四人の身体のデータには何の異常も見られず、その事実がトキヤの中にあった疑問を、不安へと変化させた。

 ……どうしたんだ、シオン。

 四人とも何の異常もないのに動かない。戦闘中だというのに周辺警戒すらせずに全く動いていない。

「っ……」

 その事実があまりにも恐ろしく、トキヤはデバイスを使い、シオンとの通信を開こうとしたが、戦闘後ならともかく戦闘中に技術屋の自分が連絡をしてもそれはノイズにしかならないと考え直し、シオンとの通信を開くことはなかった。

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