第18話

 最悪に限りなく近い形で夜中に叩き起こされ、最低の気分になったトキヤだったが、基地に敵の大部隊が接近中であるという警告を無視するわけにもいかず、トキヤは最低限の身支度をしてから部屋を出ることにした。

「ん? オールキットか」

 そして、部屋を出てすぐにトキヤはJDを整備する際に自分のサポートをしてくれる自走する補助機、オールキットが自分の部屋の前で待機している姿を見つけ、機能設定で緊急時には自分のところに来るようにしていたことを思い出したトキヤは、本当に緊急事態なんだな、と気を引き締め直した。

「オールキット、ついてこい」

 そして、トキヤは拡張パーツが全て取り外され、砂漠でカロン達を直した時よりもかなり小さくなったオールキットに指示を出してから歩き出し。

「取り敢えず、アイリスとシオンの部屋に……」

 まずはアイリスの現状を確認しなければ、と基地の人員人間はシェルターに避難するようにというデバイスに表示された指示を無視して、トキヤはアイリスとシオンの相部屋のある方向へと足を進め。

「――――」

 トキヤは遠くから、いくつかの足音が近づいてくることに気付き、足を止めた。

「……」

 ……警告の表示はまだ敵が基地に接近中のままだ。つまり、敵は基地内に侵入していないはず。

 と、トキヤは頭では現状を正確に理解しつつも、ごく僅かな接敵の可能性に警戒心を抱きながら、足音のする方角を見据え。

 ……あれは、本隊の……。

 自分に近づいてくる集団の先頭を歩くJDが自分の知るJDであることを確認し、トキヤは肩の力を抜いた。

 そして、とっくの昔にトキヤがいることに気付いていたそのJDが集団から抜け出し、トキヤに駆け寄ってきた。

「ハノトキヤ氏、ですね?」

「……俺がそれ以外の誰に見えるんだ」

「すみません、緊急時なので一応、確認を取っただけです」

エースワスプはどうした?」

「詳しい説明は移動しながらでいいでしょうか。これより我々が貴方方をシェルターに誘導しますので」

「あ、いや、ちょっと待ってくれ」

 シェルターに行く前にアイリスとシオン、できれば三馬鹿の現状も知りたいと、トキヤが目の前にいる基地所属のJDに質問しようとしたとき。

「あれ、羽野君?」

 後続の集団の中から自分を呼ぶ声が聞こえ、トキヤがそちらを見ると。

「レタさん」

 そこには数体のJDに守られている仕事仲間の女性、レタと。

「それに、アイリスも」

「ふわあ……、うん。おはよー、トキヤくん」

 合流しようと考えていた赤髪青目の自称JDの少女、アイリスがいて、トキヤは安堵の息を吐いた。

「……二人とも無事で良かった。アイリス、シオンは……」

「ハノトキヤ氏。会話をするなとは言いませんが、緊急時なので、歩きながらでお願いします」

「あ、ああ」

 悪い。と、トキヤはリーダー格のJDに謝罪してから、レタとアイリスの間に入り、シェルターに向かって歩き始めた。

「それでアイリス、シオンはどうした?」

「サンちゃん達と合流して、敵を遊撃するって言ってたよ。わたしも一緒に行こうと思ったんだけど、鋼の獅子あの子の起動には時間が掛かるから、身軽なわたしは人間の護衛をして欲しいって頼まれて……」

「それで、偶然、近くを通ったあたしがアイリスちゃんに護衛のお願いをしたってわけ」

「……成る程」

 レタさん、ファインプレーです。と、トキヤは表情には一切出さずレタを心の中で褒め称えてから、トキヤは更なる情報を得るために先頭を歩くリーダー格のJDに話し掛けた。

「なあ、俺達以外の人間の姿が見えないんだが、全員、大丈夫なんだろうか」

「他の人間達も一人を除いて貴方方と同様に手隙のJDが保護し、近くのシェルターに誘導しています」

「一人を除いてって……、安否が確認できてない人がいるのか? 誰だ?」

「ジャミル氏です」

「……あー、うん、まあ、それなら、大丈夫だ」

 たぶん、街に遊びに行ってて、基地にいないだけだな。と、自由過ぎる仕事仲間のことは、まあ、大丈夫だろうとトキヤは考え、別の質問をリーダー格のJDにしようとしたその時。

「シェルターに到着しました。デバイスの提示と生体認証をお願いします」

 JDが足を止め、シェルターに到着したということを報告してきたため、トキヤが代表で認証を終わらせ、シェルターの扉を開けた。

「自分はハノトキヤ氏達と共にシェルターに入ります。貴方達はシェルター前で防衛を。残りは散開して周辺警護をお願いします」

 そして、リーダー格のJDは他のJD達に指示を出してから、トキヤ達の後を追ってシェルターに入り、シェルターの扉が閉まってから、少しだけ力の抜けた声でトキヤに話し掛けてきた。

「ハノトキヤ氏、シェルターに到着する直前に自分に何か尋ねようとしてましたよね。無視するような形になって、すみませんでした」

「いや、シェルターに俺達人間を入れることを最優先としたお前は何も間違ってないし、感謝してるよ。……それで、シェルターに入った今なら質問をしても問題無いよな?」

「ええ、何なりと」

「それじゃあ――――」

 そして、トキヤがリーダー格のJDに現状の詳しい説明を求めると、リーダー格のJDはトキヤ達の持つウェアラブルデバイスに説明に必要なデータを送りながら、今回の敵襲の全貌を語り始めた。

 まず午前一時丁度に大量の熱源反応が基地北西三十キロの地点で確認され、基地周辺で哨務にあたっていた高機動装備のJDに確認に向かわせたところ、それが敵の大部隊であるということが判明。

 午前一時十分、敵の大部隊を殲滅するために、基地より五発のミサイルを発射するも、敵弾道弾迎撃ミサイルABMにより無力化される。

 午前一時十二分、基地所属の戦術特化JDの判断により基地全体に特殊警報を発令。それと同時に、基地のほぼ全てのJDに敵大部隊への攻撃が指示される。

「……それが今からだいたい十五分前か。となると、もう基地周辺で戦闘が始まっているな?」

「その通りです。現在、戦術特化JDの指揮の下、ワスプエースを含む味方本隊の六割の戦力が敵本隊と思われる戦力と基地から三キロほど離れた荒れ地で交戦中です」

「……敵の戦力はどのくらいなんだ?」

「夜間ということもあり、まだ正確には把握できていませんが、千は確実に超えていると思われます」

「なっ……!」

 ――――1000!?  と、敵の数を聞き、トキヤだけでなく、アイリスの話し相手をしていたレタまでもが驚き、その数の意味をよくわかっていないアイリスが首を捻った。

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