第10話

 ――――JD。正式名称、JudgmentDoll。判断する人形と名付けられたその正体は、人を模倣した機械である。

 この時代の技術の粋を集め造られたJDは、本来ならば、人間の介護、擬似パートナーとなるために造られた存在なのだが、紛争地域等では全く別の使い方、戦闘用の兵器として使われている。

 JDは、判断する人形という名前の通り、己で考え行動することができる。基本的なルールは人間に設定されてしまうが、人間以上の判断能力を持っているため、自らにとって最良の結果を手にするために動くことができ、戦闘でもその力を最大限に発揮する。

 そして、それ故に、現在、トキヤが駐在している国家ではJDが軍事活動に使用されている。

 トキヤのいる国は今、東の現政府と西の反政府で別れ、抗争している。

 東と西という暫定的な名称が付いているのは、首都の西側に反政府組織が根城にしている地域があるためである。

 低所得者に厳しい税負担のシステム、雇用問題の放置、一部政治家の汚職などを理由に数年前から現政府への不満が燻っていたのだが、いつの間にか火が付いたかと思えば、その火は瞬く間に国中に燃え広がり、反政府組織が誕生し、国内戦争が始まった。

 何が契機になったかは誰も把握していない現政府と反政府の戦争が始まってから既に三ヶ月以上の時が経過しているが、争いの規模から考えれば、死傷者数は本当にごく僅かなものであり、その立役者がJDであるということをこの国に住まう人間で知らない者はいないだろう。

「……戦争が始まって、もう三ヶ月か。あたし達は優位な政府側にいるとはいえ、早く終わって欲しいものね」

「はい。……けれども、この国にはまだステイツやルーシのようにはなって欲しくないと個人的には思ってます」

「あー……、まあ、そうね。ドンパチもやだけど、あの大国達みたいに、次の段階に行くのだけは勘弁して貰いたいわね」

 また移住する国を探さなきゃいけなくなる。と、レタが苦笑した時、扉代わりのシャッターが音も無く開き、シャッターの向こうから現れた二人の少女が、ゆっくりとした足取りでオフィスに入ってきた。

「――――失礼します」

 一人は、白銀の髪に紫の瞳を持つ、少女の形をした人ならざる者、JudgmentDollのペルフェクシオン。

「あ、ここにいたんだ。トキヤくん、ようやく見つけたよー」

 そして、もう一人は明るい赤色の髪と青い瞳を持つ、自称JDのアイリスであった。

「……アイリスとペルフェクシオン?」

 自分とは全く立場の違う二人の少女がこのオフィスに来た理由がわからなかったトキヤは目を点にし。

「どうしたんだ二人とも、何かあったのか?」

 と、二人に向けて声を発すると。

「あー、やっぱり、トキヤくんの言葉もよくわからないー」

「……ん?」

 アイリスが理解し辛い発言をしたため、トキヤは助けを求めるようにアイリスの隣にいるペルフェクシオンに視線を向けた。

「――――」

 すると、ペルフェクシオンはすぐに自分の右耳に手を当て、そのポーズを見てアイリスの現状を把握したトキヤは、殆どの言語を完璧に話すことができるペルフェクシオンに指示を出し。

「え、何? この機械をトキヤくんに渡せば良いの?」

 ペルフェクシオンに言われた通りにアイリスは自分の耳に入れていた機械を取り出し、それを手渡されたトキヤはすぐにその機械の状態をチェックし始めた。

「……緊急時用のボタンを押しても再起動しないか。間違いなく壊れてるな。壊れた原因はわからないが、そもそも自動通訳機ワールドオープナーは戦闘の衝撃に耐えられるように作られてはいないからな」

 まあ、よく持った方だろう。と、トキヤは自分のデスクから新品の自動通訳機を取り出し、それをアイリスに渡した。

「どうだ、今度は俺の言っていることがわかるか?」

 そして、アイリスが自動通訳機を右耳に装着したのを確認してから、トキヤが声を掛けると、うん、バッチリ! という元気な声が返ってきたので、トキヤはアイリスの問題は解決したと判断し、アイリスの隣にいるペルフェクシオンに視線を向けた。

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