第2話

「――――はあーあ」

 銃弾飛び交う砂漠の中で、大きな溜息を吐く存在がいた。

それは、黒髪の短いツインテールに青みを帯びた黒の瞳を持つ、一人の少女だった。

 一見するとその少女は、どこにでもいるような普通の少女のように見えるが、その手にはバールのようなものを持ち、両足には飛行機のジェットエンジンを小型化したようなパーツが取り付けられた装甲を装着しており、その出で立ちは、普通とは決していえないものだった。

 そして、その格好だけでなく、よく観察すると少女も普通とはいえない身体をしていた。

 少女が露わにしている両肩には、色こそ綺麗な薄橙色をしているが、鈍色の人形と同じような球体の関節が剥き出しになっていたのだ。

「……安価で造りやすいとはいえ、球体関節型フレームランナーの中でも下の下であるダーティネイキッドを量産するとは……。反政府の活動もそろそろお終いなのでしょうかねー?」

 そして、球体関節を持つツインテールの少女は、バールのようなものを手慰みにしつつ、銃弾をばらまきながら真っ直ぐに進んでくる鈍色の人形達に視線だけを向けて、砂漠の中心で棒立ちをし続け。

「――――」

 少女は鈍色の人形達が持つ機関銃から放たれていた銃弾をその身に受けた。

「……っ」

 それは当然の帰結であり、銃弾を受けた少女はすぐに灼熱の砂漠にその身を預けることになると思われた。

「……」

 だが、ツインテールの少女は砂漠に膝をつくことはせず、立ち続けた。

 そして、少女の身体からは真っ赤な鮮血の代わりに。

「――――」

 僅かにへこみ、完全に勢いを無くした銃弾がポロポロとこぼれ落ちた。

「……」

 ツインテールの少女は、自分の身体を貫くことなく砂漠の砂に沈んだ銃弾を一瞥した後、僅かに怒りを滲ませた瞳を鈍色の人形達へと向けた。

「あんまり汚れたくないから、増援が来るまで待とうかなー? ……って、思っていたんですけど考えを変えました。武器の有効射程もわからない連中が同じJDJudgmentDollであるという事実がもう不快で不快でしかたありませんので、取り敢えずー」

 そして、自分との距離を詰めつつある数体の人形を瞳に映捕捉したツインテールの少女は。

「視界に入った連中は、みーんな、――――スクラップにすることにしましたー」

 微笑みながら、鈍色の人形達を破壊すると宣言した。

「――――」

 そして、その宣言と同時にツインテールの少女が駆け出すと、いつからか薪が爆ぜるような音を出していた少女の脚部にあるノズルに青白い火が灯り、少女の走行速度が跳ね上がった。

「……!」

 ツインテールの少女は推進システムの補助を受け、瞬く間に鈍色の人形達との距離を詰めた。そして、そのツインテールの少女の動きに対応できず、明後日の方向に銃口を向けていた一番手前の鈍色の人形に狙いを定めたツインテールの少女は。

「バールで、バーン!」

 速度を一切緩めることなく、手に持つバールのようなものを鈍色の人形の胴体に思いっきり叩きつけ、その尋常ならざる衝撃を受けた鈍色の人形の胴体は、歪み、拉げるだけでなく、内部ケーブルが衝撃によってブチブチと音を立てながら引き裂かれ、鈍色の身体は下半身だけをその場に残し、吹き飛んだ上半身が遙か遠くの砂上で、爆発した。

「うーん、ナイスショット! よーし、どんどん行きますよー」

 一体目の鈍色の人形をあっという間に破壊したツインテールの少女は、鈍色の人形達が持つ機関銃の射線に入らぬよう円を描くように高速で移動しながら、一体一体にバールのようなものを叩きつけ、鈍色の人形達の頭を潰し、胴体を抉り、真っ二つにし、壊し尽くした。

 そして、ツインテールの少女は、最初に鈍色の人形を吹き飛ばしてから三分も経たないうちに、鈍色の人形達全てを只の鉄塊へと変え、砂漠の上で一人、バールのようなもので自分の肩を軽く叩きながら、小さく欠伸をした。

「ふわぁ。……そういえば、欠伸やため息が欲しいって相談したとき、技術屋さん、目を丸くしてましたっけ。ま、あの人じゃ、この思いは理解できないでしょうしね。……さてさて、また暇になってしまいましたから、戦況を確認してから――――」

 そして、可愛らしい欠伸を終えたツインテールの少女は欠伸をしても涙で滲まない瞳で辺りを見渡し、周囲に異常が無いことを確認し、何処かに行こうとしていたが。

「うわ」

 ツインテールの少女は足を止め、あからさまに面倒臭そうな表情を浮かべながら、巨大な砂丘の向こう側から現れた存在達に目を向けた。

「まだあんなに……」

 ツインテールの少女が見ている砂丘の上には、先ほど破壊し尽くした鈍色の人形達と全く同じ姿をした鈍色の人形達が二十体ほど存在しており、その鈍色の人形達が、真っ直ぐツインテールの少女に向かって進んできていたのだ。

「ほんと、手間だけは掛かりますねー……。悪足掻きにしても惨めすぎます」

 その鈍色の集団を見て、やれやれと小さく首を振ったツインテールの少女は、バールのようなものを握り直し、鈍色の集団へと足を進めようとしたが。

「――――バルー! バルー! 武器ちょうだーい!」

 幼子のような独特の声音が背後から聞こえてきたため、ツインテールの少女は大した脅威ではない鈍色の集団から視線を外し、後ろを振り返った。

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