JDとプロフェッサーの黄昏戦記(旧題ルート・ブレイカー)

獏末カナイ

砂塵舞う

第1話

 ――――それは、打ち上げ花火の音、そのものだった。

 夏の夜に縁日の片隅や川辺に座りながら、友人や恋人と空を見上げ、色とりどりの光る花々を眺めているときに聞こえてくる趣のある、あの音。

 仕掛け花火スターマインのような小さな炸裂音がとめどなく響き渡る中、正三尺玉を打ち上げたとしか思えない、内蔵を押し上げるような重低音が辺り一杯に広がった。

 日の本で生きる者なら、その音を耳にすれば、夜空にはさぞ綺麗な大輪の花が咲いているのだろう。と、半ば無意識のうちに夜空を見上げるだろう。

 だが、今ここで空を見上げた者は――――

 人を、生物の全てを焼き尽くさんばかりに輝く、灼熱の太陽を目にすることになる。

 夜の闇など何処にもない。夏の風物詩たる花火の柔らかな光も存在しない。

 ここにあるのは、見るだけで目が痛くなる真っ青な空と、気温53度、湿度12%という生物にとって厳しすぎる環境だけだ。

 そんな地獄のような場所だから、花火の音が幻聴のように聞こえたというのだろうか?

 いいや、それは違う。何故なら、その音は今、この瞬間も鳴り続けているのだから。

 乾いた世界を震わせ続けているその音の発生場所は、空ではなく、大地。地球そのものが迫り上がったのではないかと錯覚してしまうほどの巨大な岩石の周りに広がる砂漠から聞こえてきていた。

 その砂漠から日光の下でも強く輝くマズルフラッシュが見える度に、スターマインを彷彿させる音が聞こえ、無反動砲から放たれた砲弾が着弾する度に、打ち上げ花火のような爆音が響き渡っていた。

 そう、砂漠で音を発している物体は平和を願う花火とは、その在り方が真逆にある物。

 幾つもの強力な火器、兵器であった。

 そして、機関銃や大砲の音が鳴り響いているということは、それを扱っている者達が砂漠にいるということでもある。

 最低でも10キロ程度の重さがある重火器を武器として扱うことができる存在。それは、筋骨隆々の男達で、軍人やそれに均しい者達であろうと、誰もが考えるだろう。

 だが、機関銃を片手に砂漠を歩くのは、屈強な男達ではなく。

『――――』

 鈍色の人形だった。

 無機質な瞳が付いた無表情な顔に、辛うじて女性を象っているということがわかるボディラインを持つ身長150センチ程度の人形が数体、砂漠の中を走っていた。

 人の形を真似てはいるものの、柔らかさの欠片も感じられない鋼の身体を持つ人形が剥き出しの丸い関節を動かし、機関銃の弾を前方へと撃ち続けるその光景は、恐怖ホラーを通り越し、滑稽シュールとしか思えないものだった。

 少なくとも、その鈍色の人形と相対している者は、そう思っていた。

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