中野 透 ~エピローグ~
気付けば俺の目からは涙が溢れていた。
俺に泣く資格なんて無い。
取り返しのつかないことをしてしまったのだから。
たけど...俺が望んだのはこんな結果ではない。
俺は…
「俺が…俺のせいで」
神代が驚いて慌てていた。
メモ帳で俺のせいではないといろんな言葉で言っていた。
だけど神代の口から言葉が発せられることはない。
俺は神代に全てを話した。
桜の都市伝説なんて信じてもらえるわけがない、でも俺は見てしまった。
願ってしまった。
俺の怠惰が招いた結果にただ謝ることしか出来ない。
頭を下げたまま泣く俺に神代は肩を優しく叩いた。
俺が顔を上げるとメモ帳には…
『ねぇ、今の私なら透の好きな私でいられる?』
訳が分からない、俺を怒るでもなく恨むでもないそんな言葉。
『今の私ならあなたのそばにいてもいいですか?』
「…なんで?なんでお前はそこまでして俺と一緒に居たがるんだよ!俺のせいで声まで無くしたのに!!」
つい声を荒げてしまう。
しかし神代は微笑んでメモ帳に書き込んで俺に見せる。
『透のことが好きです』
俺は…
あれから数ヶ月…
私の構音障害はリハビリ次第では治るものだと医師から言われた。
私は退院してからも自宅でリハビリしながら学校に通っている。
そんな私に透はいつも横にいて私のサポートをしてくれる。
こんな形で私の願いが叶うなんて神様も意地悪なものである。
そんな私は学校から透に家へ送ってもらい、着替えた後一人で家を出た。
リハビリしても一向に良くなる兆しが見えないので一人で気分転換と言って出てきた。
そのわたしが向かう先はあの神社だった。
ここに来るのは2回目。
私は迷うことなく神社の社の裏に回るときに2度目の鈴の音を聞く。
社の裏には石段が上へと続いていた。
私は迷わずにそのまま上がっていく。
「…やぁ、君か。久し振りだね」
桜の下に立ち、振り替えって私を見るのは神職の衣装を纏った少年だった。
「メモ帳は不要だよ。君は心から語りかけるだけでいい」
そんな彼の言葉に私はやはり人ではないのだと確信を持つ。
「ここに来た理由はなにかな?君の願いは叶ったはずだが…もしこんな結末を望んでないと言うのなら苦情は受け付けられないよ?」
(苦情?まさか。私は感謝しに来たの)
「感謝?」
そう、感謝だ。
私はあの日に願った。
透が願い事をした日に。
透より早く。
(感謝されて驚くの?)
「…これまでの人間はそんな奴らが多かったからね」
(…そう、贅沢ね)
願いを叶えてもらっておいて文句を言うなんて厚かましい人間も居たものだと思う。
まぁ、少し意地悪な叶え方なのは認めるけど。
「…君の願いは叶ったんだね」
(うん、透の傍に居れる私になれたからそのお礼…ありがとう)
きっとリハビリに効果が無いのも私の願いのお陰。
私が願い続ける限り私は声を取り戻すことはない。
もし私が願うことをやめてしまえば…
「どうなるんだろうね…?」
彼は意地悪く嗤う。
恐らく本来は打ち所が悪く死んでいてもおかしくないほどの事故だった。
もし私が願いを放棄してまえば…なぜかその先を理解していた。
それでも…
「それでも君は幸せかい?」
彼の問いに私は笑顔で返した。
きっと今の私の笑顔は人生1に良い顔をしていることだろう。
「あんなにも歪んだ笑いが出きるなんて…やはり人間は面白いな」
中野 透 END
桜が届ける願い 暁真夜 @kuroyasya0
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